演題

JSGS Science of the Year2017(学術部門):がんの多様性と進化を創出する選択圧について

[演者] 三森 功士:1
1:九州大学病院別府病院 外科

がんは腫瘍内不均一性(多様性)のために難治であることは論を待たない.われわれは,近年の技術革新をもとにがん細胞のゲノム変異を包括的に解析し,症例間あるいは一腫瘍内の多様性を呈する進化機構の解明に取り組んでいる.
次世代シーケンサおよびスパコンを利用して進行大腸がん9例の一腫瘍内多様性解明を実施.すなわち一例ごとに原発巣を複数領域に分割し合計75個の検体についてオミックス統合解析を行い,その結果得に基づきシミュレーション解析を実施したところ,多様性獲得のための選択圧として,1.中立変異の蓄積,2.がん幹細胞(性),3.がん微小環境への暴露,以上3点が必須であることをはじめて明らかにした(Uchi R.& Takahashi Y.PLoS Genet.2016).
多様性を制御するためにはその創出起源を明らかにする必要があるが,そのためは上述の進行がん臨床検体では困難である.すなわち前がん病変を用いて同様の解析を行い,進行大腸がんの結果と統合して大腸がん多様性の創出機構について解明を試みた.腺腫を含む早期大腸がん10例(53カ所)についてマルチサンプリング解析を行ったところ,進行がんとは異なり,前がん病変では強力なdriverを有するクローンが一腫瘍内に複数箇所に存在し競合しあっていた.生物進化論に例えると,進行がんでは偶発的なマイナーな変異クローンのうち環境に適応したものが生存する「中立進化論的な進化」であり,前癌病変では「ダーウィンの自然選択説的な進化」を示していることを明らかにした.
他方,われわれはがん進化の方向性を決める選択圧として,がん細胞自身のdriver力のみならず,微小環境とくに腫瘍免疫応答に注目し『多様性を創出しうるがん微小環境』につき臨床検体を用いて分子統合的に評価した.具体的には転移再発をきたした比較的早期(stage IとII)の大腸がん10例と進行大腸がん(TCGA)の原発巣とについて,WESおよびRNA seqにてがん細胞由来のゲノム変異(neoantigenによるIC50値),TCRレパトア解析の結果(clonality値)および様々な免疫関連分子の発現レベルを比較し評価した.その結果,転移再発陽性症例は同陰性例に比べて,統計学的に有意差をもって様々な腫瘍免疫応答機構が低下していた.この結果は上述のシミュレーションの結果3と合致しており,がん細胞レベルにおけるドライバ遺伝子変異に加え,微小環境も多様性あるいは進化において重要であることを改めて明らかにした.
詳細検索