演題

ビッグデーに基づく腹腔鏡下膵切除の保険適応拡大とNCDを用いた前向き術前登録制度が果たす役割

[演者] 中村 雅史:1
1:九州大学大学院 臨床・腫瘍外科学

腹腔鏡下膵切除術は1990年代に先ず膵頭十二指腸切除術(LPD)が,そして遅れて体尾部切除術(LDP)が開始されることとなった.LPDは,ごく一部のエキスパートが症例を蓄積していることを除いて,世界的にも目覚ましく普及することはなかったが,LDPは再建が不要であることより緩徐ながらも普及していった.本邦においても同年代に複数の施設がLDPを開始した.やがて2004年に先進医療に認可された.その後比較的安全に運営されたことや,その低侵襲性を証明する臨床データが発表されたことにより,2011年には良性腫瘍に対する切除が保険適用となった.その後,Venkat(2012),中村(2013)らによるメタ・アナライシスによって,低侵襲のみでなく,術後合併症も低減する可能性が示された.さらに,2015年には日本肝胆膵外科学会プロジェクト研究として行われた2,266例の患者データをpropensity matchingの統計手法を用いて解析した多施設共同の後ろ向きコホート研究によって,LDPは低侵襲,早期回復,低率の膵液瘻,および低率の総術後合併症と関連することが証明された.これらの結果,順当に2016年より癌への適応拡大が行われることとなった.一方,LPDは,2015年に発表されたAdamらのNCDBを用いた全米7,000例以上を用いた後ろ向きコホート研究により,開腹術よりも術後死亡率が高かったことが示された.翌年発表された同じくNCDBを用いたKantorらの解析によって,この高死亡率はlearning curveに基づくものであり,high volume centerにおいては,術後死亡率が高くないことが明らかにされた.本法においては2016年よりLPDが保険収載となったが,その施設基準は厳しく,現時点での実施症例数も限られているのが現状である.しかしながら,この高い合併症率が予想される高難度手術である腹腔鏡下膵切除術が日本全体として安全に導入されることとなれば,今後,他の高難度技術の国全体としての導入に関しての良いモデルケースとなるはずです.このような重要な立ち位置にいることを踏まえて,膵臓内視鏡外科学会としてのNCD前向き登録および臨床研究としての研究会の前向き登録への参加,ラボ・トレーニングによる実習,適切なauditの実施等を通じて,今回の導入が成功するべく教育・評価システムを構築・運営中である.
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