演題

食道扁平上皮癌におけるNHE1の癌抑制的作用機序と臨床病理学的意義

[演者] 有吉 要輔:1
[著者] 塩崎 敦:1, 市川 大輔:1, 小菅 敏幸:1, 小西 博貴:1, 小松 周平:1, 藤原 斉:1, 岡本 和真:1, 岸本 光夫:2, 大辻 英吾:1
1:京都府立医科大学医学部 消化器外科学, 2:京都府立医科大学附属病院 病院病理部

【背景】
癌の細胞増殖や浸潤・転移などのプロセスにおいて,細胞内外のイオン濃度の調節は重要な役割を担っている.Na+/H+ exchanger 1(NHE1)は組織にユビキタスに存在している膜貫通型イオンチャネルであり,Na+⁺とH+の輸送により細胞内pHや細胞volumeをコントロールしている.乳癌や頸部癌・肝細胞癌などでは,NHE1は細胞増殖や浸潤能などの制御に関与していることが報告されている.
【対象と方法】
①食道扁平上皮癌細胞株2種(TE2/TE5)を用い,特異的si RNAを導入してNHE1発現を抑制し,proliferation assay・apoptosis assay・invasion/migration assayを行った.NHE1 knockdownによるPI3K/Akt signalingの発現変動および上皮間葉移行(Epithelial-Mesenchymal transition: EMT)に関連した因子の発現量変化を検討した.またmicroarray analysisにて変動している遺伝子・signalingを検索した.
②根治的手術を行った術前未治療食道扁平上皮癌症例61例の切除標本におけるNHE1発現を免疫組織染色で評価し,NHE1発現と臨床病理学的因子および予後との関連を検討した.
【結果】
①NHE1発現抑制によりTE2/TE5両細胞株とも細胞増殖が増加しアポトーシスが抑制され,遊走能および浸潤能が促進された.また,NHE1を発現抑制するとAkt・GSK-3βのリン酸化亢進とSnail・β-cateninの発現増加が認められた.microarray analysisにより,食道扁平上皮癌の分化などへの関与が報告されているNotch signalingがNHE1 knockdownにより抑制することが示唆された.
②臨床病理学的因子においては,NHE1高発現群では有意に分化型扁平上皮癌が多かった.5年生存率はNHE1高発現群82.8%,低発現群57.0%とNHE1低発現群は有意に予後不良であり,多変量解析においてもNHE1発現低下は予後不良因子であった(HR 3.570, 95% CI 1.291-11.484, p=0.0135).
【結論】
NHE1はPI3K/Akt/GSK3-β/β-catenin signalingやNotch signalingを介して食道扁平上皮癌の増殖・浸潤能・遊走能・分化に関与しており,切除標本におけるNHE1発現低下は予後不良因子となる可能性が示唆された.
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