演題

膜の局所解剖からみた消化器癌手術の要点と盲点 ー膵臓についてー

[演者] 北川 裕久:1
1:富山市立富山市民病院 消化器外科

腹腔内臓器は発生学的に,消化管を中心として背側間膜・腹側間膜の中に生じ,それらが空間的・時間的に不均一,不均等に発育するため,あたかも回転するように移動し,折りたたまれて固定される.膵臓は,背側間膜の背側膵と腹側間膜の腹側膵が癒合して腎筋膜前葉上に固定し形成されるが,腹腔臓器の中では最も腹腔動脈(CA)と上腸間膜動脈(SMA)の起始部に近く,大動脈にまたがるように存在する.この背側固定面は,膵頭側はTreitz癒合筋膜,膵尾側はToldt癒合筋膜と呼ばれるが,後腹膜臓器群,大動脈,下大静脈を広く覆っている腎筋膜前葉上に膵後面の臓側腹膜が癒合したものである.一方,膵臓前面は,膵頭上部を除いて胃・大網・横行~上行結腸間膜により覆われる.横行結腸間膜の基部は,膵体尾部の下縁に一致して右側から左側に向けてやや頭側方向に移行しているが,右側では,横行~上行結腸間膜が十二指腸水平脚寄りの膵頭前面下部の半分以上を覆い,膵頭前面の漿膜と癒合して膵前筋膜を形成している.
膵のリンパ管・神経は,そもそも膵がCAとSMAの起始部でこれらに挟まれるように存在しているという特殊性から,膵から数cm離れるとすぐにこの部位に集まってくる他臓器からのリンパ管・神経と叢を形成し,ともに左腎静脈上縁から腎筋膜前葉背側の大動脈周囲のネットワークに連続し,リンパ管は乳糜槽に,神経は自律神経の中継基地である腹腔神経節に連続していく.他の消化管のように膵のリンパ流域・リンパ節を多層化して線引きするのは困難である.その様な状況ではあるが,「神経叢」は膵癌取扱い規約第7版で「神経組織だけではなく,線維組織・脈管・脂肪組織も含む厚みを持った領域」とされ,特に「膵頭神経叢」は膵頭部癌では最も注意を払うべき部位で,膵の実質の辺縁から数センチまでの範囲で,直接浸潤も高頻度にみられるが同時に膵頭部の一次リンパ流域でもある.その剥離面はほぼNCCNガイドラインのSMA marginに相当する.「神経叢」という名称そのものには多くの問題を孕んでいるが,「膵頭神経叢」は肉眼解剖で明らかなbundleとして存在し,世界に先駆けて日本で提唱された膵頭部癌のhot areaである.
膵臓外科でも,臓器の発生と膜構造を十分理解し,安全性とのバランスを保ちつつR0を確保する,洗練された手術を立案することが求められる.
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