演題
PD8-1
繰り返す腸閉塞を契機に診断された小腸MALTリンパ腫の一切除例 |
【緒言】小腸腫瘍は, その解剖学的部位の特性により, 術前診断に至ることは一般に困難である. 今回, 繰り返す腸閉塞を契機に診断された小腸MALTリンパ腫の稀な一切除例を経験したので, 文献的考察を含め報告する. 【症例】72歳, 男性. 既往に20歳時の虫垂切除術がある. また, 20年以上前より胸部異常陰影の指摘あり, 9年前に胸腔鏡下肺生検にて肺MALTリンパ腫(BALToma)と診断され, 以来無治療経過観察とされていた. 直近2ヶ月間で3回腸閉塞を繰り返し, いずれも入院保存治療にて軽快していた. 今回, 腹痛, 腹部膨満感を主訴に当科を受診され, 腸閉塞の診断で入院となった. 身長163cm, 体重43kg, 体温36.5度. 腹部全体に軽度の膨隆, 圧痛を認めたが, 腹膜刺激徴候は認められなかった. 盗汗や体重減少のエピソードはなく, 体表リンパ節や肝脾腫も触知されなかった. 血液検査所見では, Hb 10.6g/dLと軽度貧血を認め, 末梢血分画では好酸球11.3%と軽度増多を認めた. 腫瘍マーカーは正常範囲内であったが, 可溶性IL-2レセプターは573U/mLと軽度上昇していた. H.Pylori IgG抗体は陰性であった. 腹部造影CTで小腸の一部壁肥厚と口側腸管の拡張を認めた. 腸閉塞の原因としてBALTomaの小腸病変の可能性を疑い, 開腹手術を施行した. 腹腔内観察では, Bauhin弁より約180cmの回腸に腫瘤を触知し, 狭窄機転と考え小腸部分切除および小腸間膜リンパ節サンプリング術を施行した. 手術時間48分, 出血量少量で, 術後は合併症なく経過し第10病日に退院となった. 切除標本の病理組織検査では, 粘膜固有層から漿膜下層に及ぶ小型異型リンパ球のmonotonousな増殖を認めた. 小腸間膜リンパ節への異型リンパ球浸潤は認められなかった. 免疫染色ではCD10(-), CD20(+), BCL2(+), cyclinD1(-), Ki-67 約5%であり, 低悪性度MALTリンパ腫と診断され, 肺生検時の標本も鑑みてBALTomaの小腸転移と考えられた. 術後施行した上部下部消化管内視鏡検査では異常所見を認めず, FDG-PET検査では既知の肺病変以外に異常集積を認めなかった. 現在, 術後半年を経過し, 他院血液内科にて追加治療なく経過観察中である.【考察】一般にMALTリンパ腫の進行は緩徐だが, 多臓器浸潤や長期経過後の再発や転移をきたすことがあり, 注意深い全身検索と長期にわたる経過観察が重要となる. MALTリンパ腫の経過中に繰り返される腸閉塞症例では, 小腸病変の可能性も考慮する必要があると示唆された.