
癌微小環境における腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage; TAM)は癌の進展に関与する.これまでに我々は,ヒト食道扁平上皮癌(ESCC)組織においてCD204陽性TAMの浸潤数が多いほど予後が増悪することを明らかにした.しかし,TAMによるESCCの進展メカニズムの詳細は不明である.そこで,先行研究として,ヒト末梢血単球由来マクロファージ(Mφ)にESCC細胞株の培養上清を添加してTAM様Mφを作製し,MφとTAM様Mφとの間でcDNAマイクロアレイ解析を行った.本研究ではMφと比較しTAM様Mφで高発現する遺伝子群のうちinterleukin-8(
IL-8)に注目した.IL-8はCXCケモカインの1つで,CXCR1/CXCR2受容体を介して種々の癌の進展に関与する.まず,TAM様MφにおいてIL-8の発現および分泌が亢進していることを確認した.次に,ESCC細胞株にCXCR1/CXCR2が発現していることを確認した.rhIL-8をESCC細胞株に添加するとAktおよびErk1/2経路のリン酸化を介して運動能および浸潤能を亢進させた.PI3K,MEK1/2シグナル阻害薬またはCXCR1/CXCR2の中和抗体を用いると,IL-8に誘引された運動能および浸潤能は抑制された.TAM様MφとESCC細胞株を間接共培養すると,ESCC細胞株の運動能および浸潤能を亢進させたが,PI3K,MEK1/2シグナル阻害薬またはCXCR1/CXCR2/IL-8の中和抗体を用いると,TAM様Mφに誘導される運動能および浸潤能は抑制された.以上よりTAMから分泌されるIL-8は運動能および浸潤能を亢進させ,ヒト食道扁平上皮癌の進展に寄与する可能性が示唆された.