発表

3A-013

偏見は人の知覚を歪めるか?—人種のカテゴリーに関する認知神経科学的検討—

[責任発表者] 藤田 弥世:1,2
[連名発表者] 野村 理朗:1
1:京都大学, 2:日本学術振興会

目 的
 本研究は,他者の人種カテゴリーの判断にかかわる影響因子として,人種に対する偏見に注目する。従来,例えば米国においては,祖先に黒人がいるとわかっている人物は白人と判断しないという社会的風潮 (hypodescent) を一因とする白人カテゴリーへのバイアスが知られている (e.g., Peery & Bodenhausen, 2008)。一方,日本においても白人への知覚バイアスが生じること,及びこのバイアスの抑制には差別の抑制に関与する右側の前頭前野腹外側部 (VLPFC: vantrolateral prefrontal cortex; Ito & Bartholow, 2009) が関与していることが著者らの研究により示唆された(Fujita & Nomura, in prep)。しかし,先の研究では人種に対する偏見について直接検討されておらず,脳活動から間接的に偏見の関与が示唆されるにとどまった。そこで本研究では, 人種のカテゴリー知覚課題を行わせ,課題中のPFC活性を近赤外分光法 (fNIRS: functional near-infrared spectroscopy) により測定すると同時に,人種に対する偏見態度を測定することで,脳活動と心的態度の両側面から人種のカテゴリー知覚が生じるメカニズムについて検討を行うことを目的とした。

方 法
分析対象:大学生47名 (女性21, 平均年齢21.60歳±1.44)
実験デザイン:本研究は,人種モーフィング画像(アジア‐黒/アジア‐白;混合比率1~10段階)2条件 (詳細はChao et al., 2013を参照) を用いたブロックデザイン,参加者内要因であった。
質問紙:栗田, 楠見. (2012) が用いたSD法をもとに,人種に対する顕在的な偏見態度尺度を作成した。分析には「能力の高さ」,「あたたかさ」,「好ましさ」の3因子を用いた。
カテゴリー知覚課題: PC画面上で,モーフィング画像を2500ms提示,参加者は提示時間内に提示された写真の人種が何であるか,強制二択によるキー押しにより回答した。判断基準の指標として,モーフィングレベル5.5を一方のカテゴリーから別のカテゴリーへの切り替えポイントとし,分析にはモーフィングレベルから算出された閾値を用いた。
IAT課題:Greenwald et al. (1998)をもとに,PC画面上で人種写真(アジア/白)及び評価単語(快/不快)を用いてアジア人に対する潜在的偏見態度を測定,分析にはdスコアを用いた。
手続き:まず人種のカテゴリー知覚課題を実施した。20試行を1ブロック,合計80試行であった。刺激間間隔は250ms,ブロック間間隔は15sとした。次いで,IAT課題を実施した。20試行を5ブロック,40施行を2ブロック,合計180試行であった。その後,質問紙に回答した。
fNIRS:FOIRE-3000(島津製作所)で測定した。各カテゴリー知覚課題中の酸化ヘモグロビン値 (oxy-Hb) を指標とした。前額部の25チャンネルを解析対象とし,課題ブロック中のoxy-Hbの平均から課題前10秒の平均を減算した値を活性値とした (Δoxy-Hb)。
結 果
 人種の各条件で示された閾値に対し対応のあるt検定を行った結果,アジア‐白条件の方がアジア-黒条件よりも閾値が高かった (t(46) = 7.83, p < .001, r = .76)。次いで,各カテゴリーの閾値,dスコア,偏見態度尺度の3因子及びPFC領域との相関分析を行った結果,アジア‐白条件における閾値と「能力の高さ」因子が正相関の傾向にあった (p = .05)。更に,アジア‐白条件における閾値と右VLPFC領域 (ch 27) が正の相関関係にあり,右VLPFC領域が賦活する個人ほど,閾値のバイアスが促進されることが示された(表1参照)。また,同様の傾向が「能力の高さ」因子でも示され (r = .275, p = .06),右VLPFC領域が賦活する個人ほど,アジア人は能力が高いと考える傾向があることが示された。こうした右VLPFCによる調整傾向は,アジア‐黒条件では示されなかった。
考 察
 実験の結果から,白人に対して閾値が高くなることが示され,従来示されてきた知覚バイアスが再現された。加えてこのバイアスは右VLPFCが賦活するほど強くなること,および右VLPFCの賦活はアジア人の能力を高いとみなす態度とも関連が示された。白人に対する知覚バイアスが強い個人ほどアジア人は能力が高いと考える傾向にあることが示されたことから,人種に関連する刺激の戦略的な再評価にも関与する右VLPFC領域 (Cunningham & Zelazo, 2007) を賦活させることにより,アジア人に対するポジティブな態度を抑制することで,アジア人に対する知覚バイアスが過剰に抑制された可能性等が考えられる。こうした過剰な抑制は,他者との関わりを重視する相互協調的自己観 (Markus & Kitayama, 1991) の個人特性によって調整されている可能性も含めて,解析結果の詳細を当日発表する予定である。 
(Hiroyo FUJITA, Michio NOMURA)

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