発表

3A-011

久しき仲にも気づきあり—弱い紐帯との交流によるキャリア・リフレクションの効果に関する縦断的検討—

[責任発表者] 永野 惣一:1
[連名発表者] 藤 桂:1
1:筑波大学

問題と目的
これまで,職務の専門性の発達およびキャリア・アンカーの探索過程において,自身のキャリアについての「省察(リフレクション)」が重要な役割を果たすと示されてきた(Schön, 1983; Schein, 1991)。この省察をもたらす要因として永野・藤(2016)では,Granovetter(1973)の提唱した「弱い紐帯」概念に着目した。近年の知見では,賃金向上やキャリアの進展(Seibert et al., 2001),未来へのポジティブな展望や希望の形成(玄田, 2007)など,弱い紐帯との交流は新しい情報・視点の獲得を経て,自身のキャリア発展の契機を促すことが示されているが,永野・藤(2016)でも,弱い紐帯との交流を通して自身のキャリアに対するリフレクションが促されること,ひいてはワーク・エンゲイジメントが高められることが示されている。
本研究ではこの知見を拡張し,弱い紐帯との交流とキャリア・リフレクションのプロセスは,仕事満足感の向上に対しても同様の効果を持つと予測した。また,強い紐帯との交流についても統制したうえで,弱い紐帯がもたらす効果を明らかにするとともに,その効果について縦断的調査により精緻に検討することを目的とする。
方 法
手続き 2015年12月~2016年6月に,30歳以上60歳未満の家族を持つ会社員600名(男性359名,女性241,平均年齢44.80歳,SD=8.05)を対象として,3回のwebパネル調査(Time 1~Time 3)を行った。
質問紙の内容 Time 1およびTime 3では,(1)仕事満足:金井(2000)より15項目(5件法),(2)職業性ストレス簡易調査票:下光他(2000)よりストレッサー6項目(4件法)とソーシャルサポート9項目(4件法),(3)デモグラフィック項目:年齢,転職回数,勤続年数,管理監督責任の有無等の3点を尋ねた。
一方Time 2では,(4)弱い紐帯(WTと略)との交流:2015年1月~5月の間に,「生活の場や職場が異なり,普段はたまにしかやり取りをしないけれども,久しぶりに話をした人」の有無,およびその相手の属性(交流の期間間隔,熟知度,信頼度,親密度,支持度,関係の重視度など),(5)弱い紐帯との交流による会話内容(WTConv):(4)の相手と交わした会話内容に関して,永野・藤(2016)より18項目(4件法),(6)弱い紐帯との交流から生じるキャリア・リフレクション(WTCR):(5)の会話を通して生じた自身のキャリアに対する省察に関して,永野・藤(2016)より28項目(5件法)の3点を尋ねた。なお強い紐帯(身近な関係性)との間でも(5)と同様の内容の会話がどの程度交わされていたか(STConv),(6)と同様のキャリア・リフレクションが生じていたか(STCR)を尋ね,統制変数として分析に含めることとした。
結果と考察
3回の縦断調査のすべてに回答した者で,かつ期間中に弱い紐帯の交流があった189 名(男性118名,女性71名,平均年齢45.17歳,SD=7.92)を分析対象とした。
ステップl に回答者の属性およびTime lでの仕事満足,さらに職場環境に関する変数としての職業性ストレッサーとソーシャルサポート,ステップ2に弱い紐帯に関する変数,ステップ3にWTConvおよびSTConv,ステップ4にWTCRおよびSTCRを投入し,Time 3での仕事満足を従属変数とした階層的重回帰分析を行った(Table 1)。その結果,ステップ4投入時においてR2値の増分が有意となり,WTCRにおける「自分の働き方の再評価」および「仕事以外の活動の見直し」が,Time 3における仕事満足に対し,促進的影響をもたらすことが示された。しかし,WTCRにおける「仕事への自律性向上」は,むしろ仕事満足を抑制していた。一方STCRに関しては,「仕事への自律性向上」はTime 3における仕事満足を促進しており,「仕事への危機意識喚起」は抑制していることが示された。このように,WTCRにおける「自分の働き方への再評価」が仕事満足への促進的効果を示したという結果は,永野・藤(2016)の知見を支持するものであった。
加えて,ステップ3まで同様の変数を独立変数として投入し,「自分の働き方への再評価」を従属変数とした階層的重回帰分析も行った結果,仕事満足は負の影響を示し(β=−.15,p<.10),仕事満足が低い者ほどそうした再評価がなされる傾向にあった。したがって仕事への不満足感を持つ者であっても,弱い紐帯との交流を通して「自分の働き方への再評価」を行うことができ,最終的に仕事満足の向上にも結びつく過程が存在する可能性も考えられる。この一連のプロセスは,仕事に対する満足感や意義をもたらす,ポジティブな心理的資源として考えていくことも可能かもしれない。

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