発表

3A-003

「擬態語性格尺度」は何を測っているか(1) 「淡白さ」尺度に関する事例的検討

[責任発表者] 小松 孝至:1
[連名発表者] 向山 泰代:2, [連名発表者] 西岡 美和:3, [連名発表者] 酒井 恵子:4
1:大阪教育大学, 2:京都ノートルダム女子大学, 3:甲南女子大学, 4:大阪工業大学

目 的
 日本語には性格を表す擬態語(例:「ほんわかした人」「ちゃらちゃらした人」)が数多く存在する。小松・酒井・西岡・向山(2012)は,この性格を表す擬態語について,自己・他者の評定に使用可能な6下位尺度(緩やかさ・臆病さ・几帳面さ・不機嫌さ・淡白さ・軽薄さ/各10項目)からなる「擬態語性格尺度」を構成した。さらに,小松・向山・西岡・酒井(2016)はこの尺度について,自己評定と親密な友人からの評定の相関が一定以上の値(r=.32-.56)を示し(淡白さ(r=.14)を除く),また,親密な友人関係でのリーダー/フォロワー役割に即した性格の傾向がみられることを示した。これらは,感情を伴うイメージ喚起力が強い(苧阪, 1999)とされる擬態語が,日常的な対人関係の中で性格を的確につかむために機能していることを示唆する。
 さて,擬態語を使用して私たちが自他の性格を把握するのは,具体的な行動の観察によると考えられる。しかし,各擬態語は広汎な内容を対象にし,辞書的な定義も必ずしも明確でないため,具体的にどのような行動がそうした自他の理解に結びつくのかはっきりしない。これに対し本研究は,擬態語による性格理解が他者のどのような行動やそれに対する反応・評価に基づくのかを,大学生(女子)に対する面接調査を通して明らかにすることを目的とする。本発表では,擬態語性格尺度の下位尺度の中でも性格測度としての独自性が高いと考えられる「淡白さ」に着目し,その項目となる語にあてはまる親密な友人の具体的な行動や,それに対する協力者の反応に着目しつつ探索的に検討する。
方 法
調査協力者 擬態語による自他評定の質問紙調査を実施した際,A.調査協力者の自己評定,B.調査協力者による友人評定,C.友人による自己評定の3種の回答が有効だった調査協力者215名中,面接調査への参加協力が得られた女子33名に下記の面接調査を行った。うち本発表の対象である「淡白さ」に含まれる語を取り上げたものは11名であった。
調査内容 協力者の友人で,高校時代から現在までの間のどこかで付き合いのある(あった),同年代(年齢差1歳前後),同性のよく知る(長所も短所もある程度わかる)人物について,上記の調査で擬態語性格尺度による評定を求めた結果,評定が高い項目(可能な限り異なる下位尺度から2語)を選定し,その特徴を表す具体的エピソードや,その特徴についての協力者の考えなどを尋ねた。面接時間は平均21分。
調査時期 2011年7月~2012年2月
結 果
 面接に取り上げられた淡白さ下位尺度の擬態語は,「けろり」「あっさり」「さばさば」(各2名)「さらっとした」「けろっとした」「さっぱり」「すかっとした」「すっきり」(各1名)であった。録音された面接の記録はすべて書き起こし,擬態語による他者の性格理解に結びつくと思われたエピソード等を抜き出したうえで比較を行い,協力者および語に共通する内容と思われる点を中心に,以下の3点にまとめた。
1.ネガティブ感情からの転換 友人が生活の中で遭遇する葛藤に伴うネガティブ感情を経験しつつもそこから容易に解放されるように見えることが5名から語られた(例:(嫌な出来事についての友人の発言)「ほんまに腹立ったんやけどしょうがないやん」「もうどうにもできひんし,もうだんだん考えるのもめんどくさいし,もういいわ」《語:すかっとした》)。これに対して協力者は,自分と対比し「うらやましい」「普段はいいなと思う」等ポジティブな評価を示しつつ,「その子はその子なりに悩んでて」等,周囲からみえる「淡白さ」と主観的な感覚の差異が意識されている例もあった。
2.関心の継続性の弱さ 友人が協力者に提案したことへの関心を失ってしまうことで協力者が「消化不良」と感じたり,友人の恋愛相手への好意が容易に消滅してしまうことについて,「ちょっと切り替えずに深まってもいいんじゃないかな」と感じることなど,友人の関心が継続しないことが2名から語られた(例:友人が,1週間前に盛り上がっていた相手について「もういいねん」とけろっとしてる)。
3.他者との距離 日常的な相互作用で,相対的に距離があると感じられるやりとり,たとえば会話がすぐにおわったり,積極的に声をかけたりしない(2名),相互の家を訪問することへの慎重さ(2名)(例:協力者が体調が悪く大学を休んだ際,家まで来てくれたが,外に必要な食品を置いて帰り,メールでそのことを連絡した 《語:さばさば》)が語られた。さらに「人との関係にそんなに依存してない」《語:さっぱり》などの表現がみられた。
考 察
 上で述べた3つの側面すべてで「割り切る(割り切り)」(4名)「切り替え」(2名)「切り捨て」(1名)「思考の転換」(1名)といった語が用いられていた。また,具体的なエピソードでも,関わった対象からのdetachment,あるいはdisengagementというべき状況が描かれていた。つまり,これらの事例における淡白さは,様々な側面(感情・相互作用等)で,一旦生じた関わりの転換されやすさを表すと言える。それは心地よい対人距離や,良好なストレスマネジメントとしても捉えうるが,関心が継続しない点で(それに接する)協力者の期待とのずれが否定的反応をもたらす場合もある。こうした自他の基準の違いは,自己評定と他者からの評定の相関が低かった質問紙調査の結果とも整合的である。
引用文献
小松孝至・向山泰代・西岡美和・酒井恵子 (2016). 擬態語による性格認知と友人関係におけるリーダー/フォロワー役割 心理学研究,86,589-595.
小松孝至・酒井恵子・西岡美和・向山泰代 (2012). 自他の性格評定に使用可能な擬態語性格尺度の構成 心理学研究,83,82-90.
苧阪直行 (1999). 擬音語・擬態語の認知科学 苧阪直行(編著)感性のことばを研究する—擬音語・擬態語に読む心のありか 新曜社 pp.1-26.

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