発表

2D-078

教育方法としての話し合いの学習スキル 中等教育段階における話し合いによる学びの現状と課題

[責任発表者] 益谷 真:1
1:敬和学園大学

目 的
 日本の中学校や高校では,専ら一斉指導の教授学習が行われているが,PISA型の学力や知識を活用する汎用的能力を育成するには有効ではないように思われる。高校を卒業して社会人になれば求められる実践的な課題解決力や,進学する高等教育で重視される批判的思考や創発的学習を進めていくためにも,話し合いを通じて学ぶ経験が基本的な学習スキルとして欠かせない。課題の発見と解決に向けた主体的で協同的なアクティブラーニングが注目される中,中等教育でも2008年の学習指導要領改訂で「総合的な学習」において探究的な学習を図ることが明示されているが,実際にどのように進めるかで教育現場の苦心が続いている(益谷, 2017)。
 そこで本報告では,話し合いを採り入れた学習活動が中等教育段階では実際にどのように行われているかを確認し,実態に即した話し合いの機会を増やしていく心理学的な方策を探る。

方 法
 研究対象 2015年から2017年にかけてN県にある国立大学の新入生計727名から一般教養の心理学の授業で調査した。
 調査項目 学校の所在地(市町村名),授業名(学校行事,課外活動等の教師の立ち合いのないミーティングを除く),実施学年,学習テーマ,実施合計時間,教師の支援や指導内容について自由記述で回答を求めた。
データマイニング 学習テーマと教師の支援・指導内容に関しては,自由記述から単語の出現頻度を集計した。他の調査項目はアプリオリにカテゴリーを設定して頻度を集計した。

結果と解釈
 有効回答 回答の64%で中学か高校のいずれかで話し合って学習をした経験がなく,報告から除くように教示していた修学旅行やHR,生徒会といった特別活動の話し合いについて記述する者も8%いた。話し合いが学習活動に採り入れられていた授業は,図に示すように総合的な学習で最も多く,

国語や英語などよりも数学や理科,社会で少なかった。理系や社会系の高等教育の進学者は多数いるので,話し合いの学習スキルの育成は必要である。
学校所在地 N県が48%,N県を除く北信越が16%,北海道と東北22%,東海4%,近畿4%,中国と四国が4%,九州2%であり,地域は偏在していた。
 実施学年 中学校と高校のいずれも学年による顕著な偏りはなかったが,「総合的な学習」では中学校と高校のいずれも2年次に集中していた。中学校では体験をもとに話し合っていたが,高校では講話等を聴講することが主で,進路調べや課題研究などをグループで行ってはいても,相互に互恵的な関係づくりは行われていなかった。
 実施時間 中学校では中央値4時間,SD8.46時間で不明が64%であった。高校では中央値12時間,SD12.36時間で不明が52%であった。中学校よりも高校が多くなったのは,高校で道徳がないことと,進路指導の機会が増えることに拠るのかもしれない。
 学習テーマ 総合的な学習に関しては別発表(益谷,2017)に割あいする。学習テーマには各教科で固有な題材が採りあげられていたが,英語や国語,道徳では意見を述べるだけにとどまり,課題解決を探る思考手順などは行われていなかった。数学や理科では,科学的事実の根拠や由来について資料等も用いて合理的な説明を作るといった課題設定もみられたが,解法の理解だけでなく思考の筋道を他者に説明し,成果発表を工夫するなどはみられなかった。
 教師の支援 中学校と高校で顕著な違いはなく,グループ編成の指示,例示,机間巡視,発表へのコメント,関連資料の提供や調べ方の助言,まとめの添削,理由を添えて意見を言うなどの話し合いのルールや初歩的なコミュニケーションスキルの助言なども挙げられたが,72%は不明や見守りと報告された。

考 察
中等教育段階では,話し合いが学習スキルとして学習者に明確に意識されていないことが明らかになった。現状の一斉指導の教授学習では,話し合いに時間を割くのが困難であり,話し合いの様々な技法を更に普及させていくことが必要である。心理学の観点からは,話し合うスキルの顕在的な進歩や効果は知識ベースのテストに馴染み難いので,学習者がスキルの上達を実感できる行動面での指標の開発や,ごまかし学習ではなく理解の深まりを確認できる評価方法の開発が求められる。

引用文献
益谷 真 2017 「中等教育における総合的な学習に関する学び方の質的検討」日本教育心理学会第59回総会

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