発表

2D-077

子どもの自己制御行動を促す保育者の言葉がけ方略 保育場面の発話分析から

[責任発表者] 佐々木 宏之:1
[連名発表者] 栗原 ひとみ#:2
1:新潟中央短期大学, 2:植草学園大学

目 的
 保育者は状況や対象に応じた言葉がけを選ぶことで,子どもの意欲を引き出し,あるいは行動を制止して,子どもの自己制御機能の発達を促している。Sasaki & Hayashi(2015)は子どもの自己制御を促す言葉がけに関して質問紙を作成し,親や保育者が場面に応じてポジティブ表現(元気になれる・バイ菌がいなくなる)とネガティブ表現(元気になれない・バイ菌が取れない)を使い分けることを見出した。また,佐々木・栗原(2016)は保育士の発話を記録し,実際の保育場面でも状況に応じたポジティブ表現・ネガティブ表現の使い分けがなされていることを確認した。
本研究ではポジティブ表現・ネガティブ表現以外に,保育士が子どもの自己制御行動を引き出すために行っている多様な言葉がけを分類し,保育士の言葉がけの方略を検討した。また同時に,それぞれの言葉がけが子どもに求める自己制御行動を次の二つの観点から分類した。一つは制御焦点理論(Higgins, 1997)による促進焦点・予防焦点で,促進焦点はポジティブな結果の達成を目標とし,予防焦点はネガティブな結果の回避を目標とする。もう一つは自己制御の発達研究(Kochanska et al., 2001)で用いられたDo状況・Don’t状況で,Do状況は子どもが望まない行動を実行するよう要求し,Don’t状況は子どもが望む行動を我慢するよう要求する。
方 法
調査対象:新潟県の保育士11名(経験年数2~40年)。
調査期間:2015年1~3月。
記録方法:保育士のエプロンにピンマイクを装着し,午前中の約2時間の発話をICレコーダーで録音した。同時に,発話状況の把握のため,保育の様子をハンディカメラで撮影した。
分析方法:保育士の発話データから子どもの行動を促す,あるいは制止する言葉がけを抽出し,Dennis et al.(2002)やDennis(2006)のコーディング方法をもとに,保育士の言葉がけを次の8通りのカテゴリーに分類した。
指示:「~して」のように,子どもに求める行動を明言する。
確認:「~する?」「~できる?」のように,子どもにする意思があるか,することが可能かを尋ねる。
勧誘:「~しよう」のように勧誘の助動詞を伴う表現や「~しようかな?」のように子どもの意欲や行動を誘い出す表現。
提案:「~すれば」のように,行動のヒントを与え,子どもに判断を委ねる。
許可:「~していいよ」のように,子どもの行動を許可する。
代弁:「~だって」のように,他の子どもの要求を代弁する。
ポジティブ焦点:「大丈夫」「きれい」「喜ぶ」など,ポジティブな事態に焦点を当てる。
ネガティブ焦点:「危ない」「壊れる」「悲しい」など,ネガティブな事態に焦点を当てる。
 以上の分類を行った後,それぞれの言葉がけが求める自己制御行動が促進焦点・予防焦点のいずれかに該当するか,あるいはDo状況・Don’t状況のいずれかに該当するか検討した。
結 果 と 考 察
 全体で2372の言葉がけのうち,促進焦点・予防焦点に該当する言葉がけはそれぞれ166と234であった。子どもの安全を守りながら子どもの成長を促す保育士の役割がこのようなバランスの上に成り立っていることを表しているのかもしれない。言葉がけの方略については,予防焦点に比べると促進焦点の言葉がけは勧誘(p < .05),提案(p < .005)の頻度が高く,促進焦点の言葉がけにおける子どもの主体性を育む側面を反映していると言える。
 全体で2372の言葉がけのうち,Do状況・Don’t状況に該当する言葉がけはそれぞれ80と144であった。Do状況の言葉がけで促進焦点に分類されたものは3,予防焦点に分類されたものは14だった。Don’t状況の言葉がけで促進焦点に分類されたものは0,予防焦点に分類されたものは48だった。
 Do状況に比べてDon’t状況の言葉がけが多いのは,自己主張に対して自己抑制が遅れて発達する幼児期の自己制御の性質を反映していると考えられる。言葉がけの方略については,Don’t状況に比べるとDo状況の言葉がけは勧誘(p < .001)の頻度が高く,子どもがしたがらない行動を促す際の保育士の言葉がけの工夫が伺えよう。
引用文献
Higgins, E. T. (1997). Beyond pleasure and pain. American Psychologist, 52, 1280–1300.
Kochanska, G., Coy, K. C., & Murray, K. T. (2001). The development of self-regulation in the first four years of life. Child Development, 72, 1091–1111.
佐々木・栗原 (2016). 保育士の言葉がけに見られるフレーミング方略—保育場面の談話分析から— 日本教育心理学会第58回総会, 582.
Sasaki, H. & Hayashi, Y. (2015). Regulatory fit in framing strategy of parental persuasive messages to young children. Journal of Applied Social Psychology, 45, 253–262.

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