発表

2D-075

幼児期における向社会的行動と心の理論の関連 -行為者の立場に着目して-

[責任発表者] 山口 小夜子:1
[連名発表者] 実藤 和佳子:1
1:九州大学

目 的
 人は他者と関わり合って生きており,自分の直接的な利益にはつながらない他者志向的な理由で行動することが多々ある。このような他者のためにとる行為を向社会的行動と呼び,1歳頃から出現することがわかっている(Warneken & Tomasello, 2006)。向社会的行動に関連する能力の1つとしては心の理論があげられており,心の理論得点が高い子どものほうが向社会的行動得点も高いことが示されている(Imuta, Henry, Slaughter, Selcuk, & Ruffman, 2016) 。しかし,向社会的行動は状況によって見られやすさが変わることがわかっており(Dunfield & Kuhlmeier, 2013),場面によっては向社会的行動をとるのに心の理論の獲得だけでは十分ではなく,関連が見られないことが考えられる。
そこで本研究では,自己の立場が異なる2つの条件下での行動観察を実施して,幼児が示す向社会的行動と心の理論の間に関連があるのか,また条件によって結果が異なるのかについて検討する。

方 法
対象者:3~6歳児34名
調査内容:2種類の行動観察課題と心の理論課題を個別に実施した。
行動課題1.自己CAUSED課題(ボール課題)—安定の悪い容器にボールを積み,ボールの山を崩さないように説明し,実験者が退室する。退室中,子どもが崩した場合は実験者の入室時の反応を,崩さなかった場合は実験者が入室して誘導し,崩した時の反応を観察する。
行動課題2.自己VICTIM課題(ブロック課題)—実験者は子どもにいくつかのブロックでタワーを作るよう誘導する。タワー完成後,実験者は拍手をしながらタワーをほめるが、その際拍手する手が「偶然」にタワーにぶつかってタワーがバラバラに壊れた後の子どもの反応を観察する。観察時,実験者は悲しそうな表情でブロックを見て「壊しちゃった」と言い,ブロックと子どもを交互に見つめる。反応が見られない場合は「どうしよう」と尋ねて子どもが反応する時間を与える。
心の理論課題—Wellman & Liu(2004) をもとに日本語訳された“心の理論”スケール(東山, 2007)から5種類の課題を実施した。

結 果
 心の理論課題の得点(0~5点)の平均値より得点が高い子どもをToM高群,低い子どもをToM低群に分けて,心の理論課題の得点によって向社会的行動の種類数に差があるのかについて,t検定を行った。その結果,ボール課題においてToM高群のほうが有意に多くの種類の向社会的行動を示したが(t(32) = 1.753, p < .05),ブロック課題では差は見られなかった(t(32) = -1.136, n.s.)。

考 察
自己が加害者である場面では心の理論得点の高い子どものほうがより多種の向社会的行動を示したが,自己が被害者となる場面においては心の理論得点による差は見られなかった。被害者である他者への向社会的行動については,心の理論の獲得がより多様な方略の使用に繋がるが,自分の苦悩苦痛の原因である他者への向社会的行動については,少なくとも就学前期には心の理論の獲得は関連しないことが示唆された。向社会的行動をとる際に抑制する感情の違いや,そもそもの2課題間での向社会的行動種類数の違いが理由として考えられる。今回心の理論との関連が見られなかった加害者である他者への向社会的行動の背景にある能力が何なのかについて,今後検討していきたい。

引用文献
Dunfield, K. A., & Kuhlmeier, V. A. (2013). Classifying prosocial behavior: Children's responses to instrumental need, emotional distress, and material desire. Child Development, 84(5), 1766–1776.
Imuta, K., Henry, J. D., Slaughter, V., Selcuk, B., & Ruffman, T. (2016). Theory of mind and prosocial behavior in childhood: A meta-analytic review. Developmental Psychology, 52(8), 1192 – 1205.
東山薫 (2007).“心の理論”の多面性の発達—Wellman & Liu尺度と誤答の分析—.教育心理学研究,55, 359-369.
Warneken, F., & Tomasello, M. (2006). Altruistic helping in human infants and young chimpanzees. Science, 311(5765), 1301-1303.
Wellman, H. M., & Liu, D. (2004). Scaling of theory‐of‐mind tasks. Child development, 75(2), 523-541.

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