発表

2D-073

物の浮き沈み判断にみる密度理解の発達的検討−スポンジ課題を用いて−

[責任発表者] 阪脇 孝子:1
1:早稲田大学

目 的
 密度概念の理解の困難さはしばしば指摘されているが,Smith, Carey, & Wiser (1985)においては,「物体そのものの重さ」と「材質の重さ」の区別を発達初期の初歩的な密度理解の指標とした。しかし,密度と関連が深い物体の浮き沈みの説明を行う場面で,材料となる物質の重さによる説明を行っていても,必ずしも密度の理解につながっているわけではなく, その物質に関する知識に基づく直観的な説明である可能性も示唆されている(Sakawaki, 2016)。浮き沈みの説明をする場合,材料となる物質の密度だけでなく,空洞を考慮しなければいけないような場合もある。ここでは,小学生にもよりなじみが深いと考えられる, 空洞が存在するような物体を用い,浮き沈み判断の中での小学生の説明は密度の理解に結びつき得るような要素があるか検討を行った。

方 法
小学校1, 2年生24名(うち1年生6名, 平均7歳5ヶ月, SD 0.53 ),4年生24名(平均9歳10ヶ月, SD 0.32 ),5,6年生23名(うち5年生5名, 平均11歳6ヶ月, SD 0.52 )を対象に複数の物体を提示し浮き沈みの判断やその理由を問う課題を実施した。ここでは前述の問題に即した一部の課題を取り上げる。手続きの詳細は,1.対象者に4つの物体を提示した。全て材質は異なっているが,そのうち2つはいずれもスポンジ状(スポンジ1, 2とする)の物体である。残りの2つはプラスチックの一種およびゴム製の物体で,固さのある物体である。重さの順は,スポンジ1 < プラスチック < スポンジ2 < ゴムであるが,水に入れた時に浮くのはスポンジ1, 2(多少水を吸収しても実験場面で沈むほどでない)であり物体の重さ順と浮き沈みの結果は一致しない。2. 実験者は物体の重さの順序を示し,理解の確認を行った。3. それぞれの物体が水に浮くか沈むかの判断とその理由説明を求めた。4. 実際に物体を水に入れて確認した後,意見の変化などを質問した。また必要に応じ,追加の追及質問を実施した。

結 果
 参加者の浮き沈みの要因に関する説明は以下のように分類された。「変則的な重さ」:重さおよび重さに関連する観点を主として説明をするが,重い物が浮いて軽い物が沈むなど標準的な説明と異なる説明,「重さ」: 重さ順に添った浮き沈みの判断を行い,主に物体の重さやそれと関連する特徴により説明を行っているもの,「性質」:スポンジ状の物体とそれ以外で区別し,主に物体の何らかの性質により説明しているが重さとの関連づけはない,もしくは関連づけが一貫していないもの(例:ふわふわしたものは浮く),「性質(重さ)」:「性質」と同様だが,物体の重さ順とは矛盾するにも関わらず物体や物質の何らかの特徴と重さとを関連づけ説明したもの。明確に「空洞」に触れていない説明も含む(例:穴が空いていて空気で軽くなるから浮く),「密度」:完全な説明ではなくても一定の大きさで比較した重さについて触れているもの(例:「この大きさでの重さは空気が入っていればいるほど軽くなる(から浮く)」),「その他の説明」:その他の判断,説明の仕方で理由がわからず説明できない例も含む,に区別した。確認不足等の理由により分類が確定できないと考えられた2年生1名, 4年生2名, 5-6年生計2名は分析から除外した。実際の浮き沈み確認前の各分類に該当する人数と割合をTable1, 確認後の各分類に該当する人数と割合をTable2に示す。
「性質(重さ)」および「密度」による説明に分類された対象者は,「重さ」と関連づけてはいても物体そのものの重さとは異なる観点から捉えていると考えられる。実験後に関してはこの種の説明を行った人数の学年差は有意傾向で(χ2(2)=4.825 .05 < p < .10), 参考に残差分析を行うと1-2年生でこの種の説明が少ないことが示された(p < .05)。ただしこの種の説明でも特に「材質(重さ)」の説明では物体そのものの重さとの矛盾が必ずしも適切に解決できたとはいえなかった。

考 察
低学年にも比較的馴染みが深い物体を取り上げたためか, 実験後において, どの学年でも物体の性質と関連づけた説明が目立ったが物体そのものの重さとは異なる物質の相対的な重さに基づく説明が目立つようになりつつあるのは4年生以降であると考えられる。ただし, この種の説明を行っていても, 物体そのものの重さとの矛盾については充分に解決できていないことから必ずしも密度理解に直結するものとは言えず, 別種の物体を用いたSakawaki(2016)と同様, 物質に関する知に基づく直観的な説明にとどまっているものと考えられる。

引用文献
Smith, C., Carey, S., & Wiser, M (1985). On differentiation: A case study of the development of the concepts of size, weight, and density. Cognition, 21, 177-237
Sakawaki, T. (2016). Children’s conceptualization of floating and sinking objects and their use of density concept. Poster Presented at the 31st International Congress of Psychology (Yokohama, JAPAN)

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