発表

2D-071

幼児期における典型的な感情経験の主体

[責任発表者] 浜名 真以:1,2
1:東京大学, 2:日本学術振興会

目 的
 感情経験の理解は幼児期を通して発達するが,特にネガティブな感情経験については,自己を主体とした理解より他者を主体とした理解の方が優れることがわかっている。幼児は自己を主体としたネガティブな感情経験より他者を主体としたネガティブな感情経験をしたことがあると回答しやすく,適切な内容を語りやすいこと(久保, 2007; Kubo, 2000),さらに,仮想的な状況においても,他者を主体とした場合より自己を主体とした場合の方が適切に感情を推測しやすいことが明らかとなっている(菊池, 2006; Karniol & Koren, 1987)。これらのことから幼児は,どのような時にどの感情が生起するといった感情の一般的理解の前に,例えば怒りを経験するのは自分ではなく母親であるといったように,感情経験の主体を限定的に捉えている可能性がある。
本研究では,幼児が典型的な感情経験の主体として誰を想定しやすいかを大人と比較することで,幼児の感情経験を捉え方の一端を明らかにすることを目的とする。また,幼児期の感情経験における身近の他者との社会的なかかわりの重要性が指摘されているため(Dunn & Hughes, 1998),感情ごとのエピソード内容として他者との社会的なかかわりが言及されやすいかについても併せて検討する。

方 法
参加者 年中児26名(M=5歳1か月),年長児22名(M=6歳),大人15名(M=26.3歳)が参加した。
手続き 幼児を対象とした調査は,調査者と幼児の1対1のインタビュー形式で行った。年中児,年長児に対し,主体を限定せずに,喜び,悲しみ,怒り,嫌悪,恐怖,驚きの感情経験を想起,回答させた。具体的には,「嬉しい(悲しい,怒る,いや,怖い,びっくり)ってどんな気持ちだと思う?○○ちゃんやみんなはどんなとき嬉しい気持ちになるかな?○○ちゃん(参加児の名前)が嬉しい気持ちになるときでも,お友達が嬉しい気持ちになるときでも,お母さんが嬉しい気持ちになるときでもいいよ。」と尋ねた。感情経験の主体が明瞭でない回答が得られた場合は,「誰の気持ちかな?」と質問を加えた。尋ねる感情の順番はランダムであった。
大人を対象とした調査は,インターネット上のアンケートを通じて行った。6つの感情をそれぞれどのようなときに経験するかを尋ねた。参加者自身の経験でも,他の人の経験でも,一般的な人の経験でも構わないものとし,誰の気持ちかを明確に回答するよう求めた。

結 果
感情経験の主体 まず,回答の内容から感情経験の主体を,自己,他者,一般の3つのカテゴリーに分類した。他者カテゴリーには母親や友達,弟といった具体的な他者が含まれ,一般カテゴリーには「みんな」,「(叩かれた)人」といった一般的な他者が含まれた。
典型的な感情経験の主体ついての年齢による違いを明らかにするため,それぞれの感情ごとに,年齢群(年中児,年長児,大人)×主体(自己,他者,一般)のχ² 検定を行ったところ,喜び,怒りでのみ有意差が認められた(それぞれχ² (4) = 11.95, p < .05; χ² (4) = 12.91, p < .05)。残差分析の結果,喜びについては,年中児は自己の感情経験を回答した人が少なく,他者の感情経験を回答した人が多かった(ps < .05)。怒りについては,年中児の子どもでは自己の感情経験を回答した人が少なく,他者の感情経験を回答した人が多かったが,大人では自己の感情経験を回答した人が多く,他者の感情経験を回答した人が少なかった(ps < .05)。年中児の他者を主体とした喜び経験の回答のうちもっとも多かったのは友達の喜び経験で(年中児名7名中4名),年中児,年長児による他者を主体とした怒り経験の回答のうちもっとも多かったのは母親の怒り経験であった(年中児18名中10名,年長児10名中8名)。

感情経験における社会的かかわり プレゼントをもらうなどの社会的なかかわりが言及されているものを社会的エピソード,雨が降るなど社会的なかかわりが言及されていないものを個人的エピソードとして,回答された感情経験の内容を分類し,それぞれについて語った人数をカウントした。喜び経験と嫌悪経験の自己を主体とした回答では,幼児はほとんどが社会的エピソードを回答していたが,大人は社会的エピソードだけでなく個人的エピソードについても回答していた。

考 察
年齢によって典型的な感情経験として想定する主体が異なり,年中児は喜び経験と怒り経験について自己を主体として想定しにくく他者を主体として想定しやすいことがわかった。さらに,年中児,年長児ともに感情経験の内容は社会的エピソードが多く個人的エピソードが少なく,幼児は感情経験を社会的な文脈に関連させやすいことが明らかとなった。これらのことから,幼児ははじめ,感情経験としてより限定的な状況のみを捉えている可能性があると言える。それが徐々に統合され,感情の一般的な理解に発展していくのかもしれない。さらに,子どもの自他の感情理解は身近な他者との社会的なかかわりの中で発達していくことが示唆された。

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