発表

2D-058

ローマ字表記語の音読におけるMasked Onset Priming Effect

[責任発表者] 吉原 将大:1,2
[連名発表者] 日野 泰志:1
1:早稲田大学, 2:日本学術振興会

目 的
 地図や駅の案内板など,日常生活でローマ字を見かけることは比較的多い。しかしながら,漢字や仮名と比較すると,ローマ字で書かれた語の認知過程についてはあまり検討されていない。本研究では,日本語母語話者におけるローマ字表記語の音読処理プロセスについて,マスク下プライミング音読課題を用いて検討する。
 Forster & Davis (1991)は,英語を用いたマスク下プライミング音読課題において,プライムとターゲットの先頭音が同じである場合,異なる場合よりも音読反応潜時が短くなることを報告した(e.g., save – SINK < have – SINK)。この現象はMasked Onset Priming Effect (MOPE)と呼ばれており,音読時の処理ユニットのサイズを反映すると考えられている。すなわち,英語母語話者における音読時の処理ユニットは音素であるため,マスク下提示されたプライムの先頭音素が活性化されたことを示している。
 これまで,日本語を用いた研究においてMOPEは観察されていない。Verdonschot et al. (2011)によれば,日本語母語話者は音素ではなく,モーラを処理ユニットとしているため,マスク下提示されたプライムの音素を活性化することができない。彼らはローマ字表記語を用いたマスク下プライミング音読課題を実施したが,有意なMOPEは観察されなかった。
 しかし,Verdonschot et al. (2011)の実験2においては,プライム‐ターゲット・ペアにおける先頭音素が同じ条件(e.g., koto – KAZE)と異なる条件(e.g., soto – KAZE)の間に,有意ではないものの16msの反応時間差が観察されている。そこで本研究では,プライムの提示時間を操作することにより,ローマ字表記語に対するMOPEを検出することが可能かどうか再検討を試みた。

方 法
実験参加者:早稲田大学に在籍する97名の学生が参加した。
刺激:36個のローマ字表記をターゲットとして使用した。各ターゲット(e.g., KOGATA)に対して,先頭音素を共有する関連ありプライム(e.g., kikoku),先頭音素を共有しない関連なしプライム(e.g., jikoku)を,それぞれ36語ずつ選定した。それぞれのターゲットとプライムを組み合わせて計72ペアを作成した。
手続き:97名の実験参加者のうち,47名が実験1に,50名が実験2に参加した。各実験では,実験参加者の前方約50cmの位置にあるCRT画面中央に刺激が提示された。各試行では,マスク刺激(######)が1000ms間提示された後に,プライムが提示され,直ちにターゲットに置き換えられた。プライムは,実験1では50ms間,実験2では67ms間提示された。
実験参加者には刺激提示の詳細を告げずに,提示される大文字表記のローマ字表記ターゲットをできるだけ迅速かつ正確にマイクに向かって読み上げるよう教示した。ターゲット提示から音読反応までの反応時間は,試行毎にPCにより自動的に記録された。また,実験者が個別に反応の正誤を記録した。各実験参加者は全ペアに対する音読反応を求められた。なお,各ペアの提示順序については,カウンターバランスを取った。

結 果
 誤反応率が20%を超えたものが1名,外れ値が20%を越えたものが4名いたため,これらのデータは分析から除外し,両実験ともに46名のデータを分析対象とした。各実験における,条件ごとの平均反応時間(ms)と誤反応率(%)をTable 1に示す。実験1,実験2のそれぞれにおいて,音韻関連性(関連あり,関連なし)とターゲット提示回数(1回,2回)を要因とする二要因の分散分析を行った。
反応時間の分析では,実験1においては音韻関連性の主効果は有意でなかった(F1(1, 45) = 2.87, MSE = 2539.40, p = .097; F2(1, 35) = 3.09, MSE = 1734.95, p = .087)。一方,実験2においては,音韻関連性の主効果が有意だった(F1(1, 45) = 5.71, MSE = 2246.93, p = .021; F2(1, 35) = 6.02, MSE = 1944.74, p = .019)。
誤反応率の分析では,実験1,実験2のいずれにおいても,音韻関連性の主効果は有意ではなかった(all Fs < 1)。

考 察
日本語においても,MOPEを観察可能であることが示された。プライムの提示時間が短い場合(実験1),ローマ字表記語に対するMOPEは観察されなかったのに対し,提示時間が長い場合(実験2)には,有意なMOPEが観察された。
 これらの結果は,処理に時間がかかるものの,日本語母語話者であっても,音素をユニットとする音韻処理が可能であることを示唆している。

引用文献
Forster, K. I., & Davis, C. (1991). The density constraint on form-priming in the naming task. JML, 30, 1-25.
Verdonschot, R.G., Kiyama, S., Tamaoka, K., Kinoshita, S., La Heij, W., & Schiller, N.O. (2011). The functional unit of Japanese word naming. JEP: LMC, 37, 1458-1473.

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