発表

2D-056

文章産出における文の産出プロセス

[責任発表者] 藤木 大介:1,2
[連名発表者] 山川 真由:3
1:愛知教育大学, 2:広島大学, 3:名古屋大学

 作文指導を行うには人間がどのように言語を生み出しているのか明らかであるべきだろう。文章産出のメカニズムについて説明したモデルはいくつかある。例えばFlower & Heyes (1981)では,文章を産出する際,プランニングやモニタリングなどが行われるとされているが,どのタイミングでどのような文が産出されるかは予測できない。またScardamalia & Bereiter (1987)のモデルでは,書き手の熟達度の違いによって質の異なる文章が産出されることは予測できるが,そのような文章が書き上げられるために1つ1つの文がどのような順で産出されるのかを予測できない。
 文章産出過程でどのような種類の文が産出されるか,また,それはどのような順序で産出されるかを予測可能にしようとしたのが構築展開モデル(山川・藤木,2014等)である。特に重要なのは,文章産出のために構築された表象を1つ1つの文として出力する際,連想,付加,具体化という3つの規則に従うと仮定したことである。連想の規則適用によって産出される文は,文章を書くために形成した表象から無意識的,自動的に生成されてくるトピックに関するもので,文章のテーマから思い浮かんだ事柄や,書きながら思い浮かんできた事柄などを言語化したものとしている。付加は,連想文を生成する段階ですでにその連想の範囲内にあったものを意識化し,言語化したものとしている。そのため,連想文の関連情報を言語化したものと言える。具体化は連想文や付加文に関するより限定的で具体的な情報を言語化するものであり,個人的な記憶や,特定の具体例などに関する記述などとしている。
 しかしながら,この構築展開モデルはその妥当性の検証が不十分である。これまでの研究では,書かれた文章中の文を事後的に分類し,展開規則が適用された数を集計し,書き手の認知能力等と,産出された文の種類との対応からその妥当性を検討してきた。しかし,産出された文を事後的に分類したものと,それぞれの文が産出される過程の特徴とが対応しているのかが検討されていない。そこで本研究では,規則適用過程として仮定されている認知的な処理の仕方と,産出された文の内容とが対応していることを確認する。そのために,文章産出過程で1つ1つの文がどのように産出されるかを記録し,その結果と構築展開モデルに基づく文の分類との対応を明らかにする。
 構築展開モデルに基づけば,連想文の産出はどのようなトピックについて書くかを考えるためにアイディアの悉皆探索が必要となり,時間を要するだろう。そのため,前の文の書き終わりから次の文の書き始めまでの時間,つまりプランニングに要する時間が長くなるだろう。また連想文はプランニングが並行して行われる中で産出されることもあると考えられるため,書字時間が長くなる可能性がある。さらに,付加文は連想に対して情報量が増加すると考えられるため,一文に含まれる文字数が増える可能性がある。
方法
 実験参加者 大学生14名,平均年齢18.2歳であった。
 材料 A3の用紙に横書きの原稿用紙(20字×20行)2枚分を印刷したものを使用した。課題は自分の大学を高校生に紹介することであった。
 手続き 材料で示した課題を元に,15分間での作文を求めた。その過程をビデオで記録した。
結果と考察
 産出された文章中の各文の分類を行った。連想の適用を受けて産出された文は,文章の最初の文や,文章中でトピックセンテンス,つまり話題が始まる文となっているものと定義した。付加の文は,このトピックセンテンスの内容に関連した記述のものとした。具体化の文は,前の文意についてより詳細な状況や具体的な状況について記述したものとした。この分類は2名で独立に個別で行った。この際の分類の単純一致率は73%であった(κ = .49)。その上で,分類が一致しなかった文については合議の上分類を決定した。なお,具体化文に関しては1文しか産出されなかったため,分析の対象としなかった。
 各文の書き始めと書き終わりの時間を記録した。前文の書き終わりから次の文の書き始めまでに要する時間については,連想文では18.3(SD = 17.2)秒,付加文では10.0(SD = 7.5)秒であったが,これらの間に有意な差は認められなかった(t(13) = 1.45, ns)。一方,各文を書いている時間(1文字あたり)は連想文は1.8(SD = 0.4)秒,付加文は1.6(SD = 0.4)秒であり,連想文の方が長い傾向が認めれた(t(13) = 2.01, p = .07)。各文の文字数は,連想文が39.2(SD = 12.2)文字,付加文が46.8(SD = 14.6)文字であり,付加文の方が多かった(t(13) = 2.28, p < .05)。これらの結果から,書き始めるまでの時間に有意な差は認められなかったものの,新たな話題について書きはじめるとされる連想文は,プランニングにともない時間を要する傾向があると考えられる。また,文章を精緻にすると考えられる付加文については一文の長さが長くなることも分かった。これらの結果は構築展開モデルの想定している処理過程と矛盾しない。
文献
Flower, L., & Hayes, J. R. (1981). A cognitive process theory of writing. College Composition and Communication, 32, 365-387.
Scardamalia, M., & Bereiter, C. (1987). Knowledge telling and knowledge transforming in written composition. In S. Rosenberg (Ed.), Advances in applied psycholinguistics. Volume 2: Reading, writing, and language learning. (pp. 142-175). Cambridge: Cambridge University Press.
山川 真由・藤木 大介 (2014).文章産出における心的表象の表出過程のモデル化:表象表出の自動性・制御性 認知科学,20,485-496.

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