発表

2D-038

認知的熟慮性と加齢変化:認知的加齢との関係

[責任発表者] 原田 悦子:1
[連名発表者] 原田 佑規#:1, [連名発表者] 水浪 田鶴:1, [連名発表者] 田中 伸之輔:1, [連名発表者] 須藤 智:2
1:筑波大学, 2:静岡大学

目的
Frederick(2005)は,Kahneman(2011)の二つの思考様式,すなわちヒューリスティックな迅速な判断と熟慮的・意識的な判断の傾向を測る指標として,認知的熟慮性課題(Cognitive Reflection Task:以下CRTとする)を提唱し,様々な意思決定などとの関係性が報告されてきている(Pennycookら,2016:松原他,2015等).こうした思考傾向は,Jacoby(1991)が提唱した記憶の二重過程にも関連する概念と考えられるが,後者が流暢性判断に基づく迅速・自動的な認知的過程と,言語的・論理的な判断に基づく意識的認知過程の二過程の並行性とそのバランスの認知的加齢による変化を報告していることに対し,前者ではそうした加齢変化については明確な報告はなされていない.しかし,複雑な人工物との相互作用のような高次認知機能の観察においても,高齢者は自動的な処理が優先する(Harada,Asano,& Suto,2014)ことが示されており,CRTにおいても加齢変化が予測される.
 そこで本研究は,CRTを用いた熟慮性に関する思考傾向を高齢者群と若年成人群との間で比較し,その加齢変化と認知的制御機能との関係性について検討を行うことを目的として,実験を行った.
方法
参加者:高齢者(以下OA)は,筑波大学CUARみんラボ参加者登録DBに登録した80名(平均72.49歳,SD4.90),若年成人(以下YA)は筑波大学学生68名であった.
主な材料:Frederick(2005)が提唱した3項目のクイズを,松原他(2015)を参照としながら,日本の高齢者にとって違和感なく理解が可能であるよう,独自に日本語版を作成して実施した.問題文は下記のとおり.なお本研究では,各問に対し,答に対する確信度を数(10段階)で答えるよう求めた:
問1)バットとボールは,合わせて1100円です。バットはボールよりも1000円高いです。では,ボールはいくらでしょう?
問2)5台の機械は,5分間で5個のおもちゃを作ります。では,100台の機械が100個のおもちゃを作るのには,何分かかりますか?
問3)池にスイレンの葉が浮かんでいます。葉の面積は毎日倍になります。葉が池を覆い尽くすのに48日かかりました。では, 半分を覆うまでには何日かかったでしょうか?
方法と手続き:高齢者は,参加者登録DBへの再登録インタビューのために来室し,個別に調査を行った.再登録インタビューの中ではAIST版認知的加齢検査が冊子形式で行われ,その後,クイズとして,CRTならびにその他の調査が行われた.高齢者の内,11名についてはCRT3題を同時に紙で提示して筆記で回答を求めた.その後の69名についてはタブレット画面で1題ずつ提示し,タッチパネルで入力する形式とした.
 若年成人については,関連する授業の中で,集団で実施し,口頭でデータ利用の同意を得た.問題はプロジェクタで3題同時に提示をし,筆記で回答を求めた.
結果と考察
 CRTでの得点(0−3点),その源データである回答の正否を問ごとに頻度をまとめ,さらに確信度の平均値(SD)を表1に示した.得点は若年成人で平均1.84に対し,高齢者の平均は0.63であり,その差は統計的に有意であった(p<.01).各問の回答の正否はいずれの問題においても同様の傾向を示し(いずれもχ2検定でp<.01),さらに高齢者群を紙媒体で実施した場合とPCで実施した場合に分けた場合も同様であった.興味深いことに確信度においては,問2,問3では有意差が見られなかった(p>.10)のに対し,問1においては,高齢者群のほうが「自分の回答に自信がない」という結果を示した.比率においても問1の高齢者正解率は際立って低く,こうした相違が,問の特性によるものか,課題解決の順に依拠するものか,さらに検討を要するものと考えられた.
 一部の高齢者データ(N=50)について,CRT得点とデータベース再登録時に実施した各種調査項目ならびにAIST版認知的加齢テストでの項目他の達成成績との関係性を検討したところ,教育年数との関係性(r=.32)を除き,いずれの項目とも有意な相関を示さなかった.また,ad hocな分析ではあるが,大学生データにおいても,最終試験成績との関係性は低く,高齢者,若年成人いずれの群においても,いわゆる認知的達成との直接的な関係性は低いことも示唆された.
以上,CRT得点は大きな加齢変化を示し,認知的加齢現象との関係性を示したものの,認知的達成とは必ずしも強い関係性が示されず,そのメカニズムについて大きな疑問をもたらした.一方,日常生活の活動特性との関係性も考えられ,さらに認知的熟慮性課題と加齢の関係性について,検討を進めていくべきことが示されたと言えよう.

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