発表

2D-034

ヒトとトリにおける聴覚的補完現象の比較検討

[責任発表者] 澤田 佳子:1
[連名発表者] 岡ノ谷 一夫:2, [連名発表者] 田中 章浩:1
1:東京女子大学, 2:東京大学

目 的
 ヒトは発声学習をすることができる。ヒト以外で発声学習ができる生物であるトリの鳴禽類はさえずりを学習する際に敏感期があることなど、ヒトとの共通点がある。そのことからヒトと聴覚を比較することによってヒトの発声学習の特異性を明らかにすることができると考えられている。
ヒトは会話の途中が雑音で遮られていてもスムーズに聞き取ることができる。このようにマスクされて本来は聞こえないはずの音を知覚的に補うことを聴覚的補完現象という。これまでの研究でヒトは音声や音楽において補完が起こることが明らかになっている (Warren, 1984) 。また、トリでは鳴禽類のホシムクドリで聴覚的補完現象が起こることがわかっている (Seeba & Klump, 2009) 。しかし、ヒトと鳴禽類とで同様の手法、条件を用いた比較研究はなされていない。
そこで、本研究では聴覚的補完現象を用いてヒトと鳴禽類のジュウシマツで比較を行った。両者で聴覚的補完現象が同様に起こるのか、それとも異なるのかをジュウシマツのさえずりを刺激としたオペラント実験で検討した。
方 法
実験参加者および被検体 実験参加者は20人、被検体はジュウシマツ6羽だった。
装置および刺激 トリの実験では防音箱内の前面に2つの反応キーのついた実験ケージを用いた。
刺激として、ジュウシマツのさえずり(順再生)およびさえずりを時間反転した音(逆再生)を作成した。トレーニングには順再生および逆再生刺激を用いた。プローブ刺激にはトレーニングで用いた刺激(誘導音なし条件)、および各歌要素の区間のうち、開始後25~75%の区間にホワイトノイズ(ノイズ条件)または無音(無音条件)を挿入した刺激を用いた。
手続き ヒトの実験はトレーニングとテストの2つのセッションに分かれていた。どちらもGo/No-go課題を用い、キー押しで回答させた。Go刺激に対して反応した場合はベル音とともに正解を示す赤色の円(○)を表示した。逆にNo-go刺激で反応した場合、ビープ音とともに不正解を示す2本の青い線分が直交した図形(×)を表示した。Go刺激とNo-go刺激で反応しなかった場合、フィードバックはなかった。実験参加者には、正解が多くなるように回答するように教示した。トレーニングでは2種類の誘導音なし条件刺激を弁別させた。40試行を1セットとして正答率が80%を超えるまで繰り返し実施した。その後、テストを行った。テストはトレーニングで用いた誘導音なし条件2種類をそれぞれ80試行、順再生のノイズ条件と無音条件をそれぞれ10試行、逆再生のノイズ条件と無音条件をそれぞれ10試行の計200試行とした。
 トリの実験もヒトと同様に2つのセッションに分かれており、Go/No-go課題を用いて実験を行なった。トレーニングは1回100試行として、1日1回行った。これを2日間連続して正答率が80%を超えるまで行った。その後、テストを行った。テストはトレーニングで用いた誘導音なし条件2種類をそれぞれ40試行、順再生のノイズ条件と無音条件をそれぞれ5試行、逆再生のノイズ条件と無音条件をそれぞれ5試行の計100試行とした。
結 果 と 考 察
 Go刺激に対してGo反応をした場合と、No-go刺激に対して反応しなかった場合を正反応として、ヒトとトリのテストセッションの正反応率を条件ごとに算出した。結果をFig.1に示す。生物種×誘導音の2要因の分散分析を行った結果、誘導音の主効果(F (2,44) = 28.87, p < .001)、生物種×誘導音の交互作用(F (2,44) = 6.89, p < .005)が有意であった。
下位検定の結果、ヒトにおける誘導音の単純主効果が有意であり(F (2,36) = 47.14, p < .001)、ノイズ条件が無音条件よりも正反応率が有意に高くなったことから、ヒトはトリのさえずりでも聴覚的補完が起こることが明らかになった。一方、トリでは誘導音の単純主効果が有意で(F (2,8) = 22.64, p < .005)、無音条件がノイズ条件よりも正反応率が高くなった。このことからトリではさえずりでは聴覚的補完が起こらないことが示唆された。これには、聞きなれた同種のさえずりに挿入されたノイズにたいして忌避的な反応を示したためと考えられる (高橋・岡ノ谷, 2001) 。

謝辞: 本研究はJSPS 科研費 基盤研究(A)17H01015の助成を受けたものです。
引用文献
Seeba, F., & Klump, G. M. (2009). Stimulus familiarity affects perceptual restoration in the European starling (Sturnus vulgaris). PLoS One, 4(6), e5974.
高橋美樹・岡ノ谷一夫. (2001). P-2A-3 ジュウシマツ (Class Aves, Lonchurastriatavar. domestica) の鳴き返し反応を指標とした聴覚的補完能力の推定. 動物心理学研究, 51(2), 105.
Warren, R. M. (1984). Perceptual restoration of obliterated sounds. Psychological Bulletin, 96(2), 371.

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