発表

2D-031

子ども用強み注目尺度作成の試み

[責任発表者] 阿部 望:1
[連名発表者] 岸田 広平:1,2, [連名発表者] 石川 信一:1
1:同志社大学, 2:日本学術振興会

目 的
近年,ポジティブ心理学の発展に伴い,強みに関する研究が注目されるようになってきた(例えば,Park et al., 2004)。強みとは,人が活躍したり最善を尽くすことを可能にさせる特性のことである(Wood et al., 2011)。これまで,子どもの強みに関する研究が数多くなされ,子どもの強みの保有度と幸福感や抑うつとの関連が示されてきた(Gillham et al., 2011)。また,子どもの強みの育成を目指す教育プログラムでは,強みを伸ばすだけでなく,他者の強みについて考えるという構成要素も重要であることが指摘されている(Linkins et al., 2015)。しかし,これまで自分や他者の強みに注目することが子どもの精神的健康に与える影響について検討した研究はなく,子どもの強みへの注目を測定する尺度もない。
高橋・森本(2012)は,大学生を対象として自己のポジティブ側面への積極的注目(自己の強みへの注目)と他者のポジティブ側面への積極的注目(他者の強みへの注目)を測定可能なポジティブ側面への積極的注目尺度を作成している。
そこで,本研究では,高橋・森本(2012)が作成した尺度を修正し,子どもの自己・他者の強みへの注目を測定可能な子ども用強み注目尺度の作成を行い,妥当性と信頼性の検討を行う。
方 法
 調査対象 中学1,2年生275名のうち,欠損値のない238名(平均年齢13.5歳,男子118名,女子120名)を分析の対象とした。
 調査材料 1. 子ども用強み注目尺度(本研究で作成):ポジティブ側面への積極的注目尺度(高橋・森本,2012)15項目(自己のポジティブ側面への積極的注目7項目,他者のポジティブ側面への積極的注目8項目)について,“良い面”や“良い部分”という表記を“長所(良いところ)”に変更し,中学生でも理解できるよう項目の修正を行った。これにより,18項目からなる子ども用強み注目尺度(5件法)を作成した。
 2. 妥当性の検討:2つのポジティブ側面への積極的注目は,主観的幸福感と中程度の正の相関,ネガティブ認知と弱い負の相関が示されていることから(高橋・森本,2012),子どもにおいても自己・他者の強みへの注目は,幸福感と中程度の正の相関を示し,抑うつと弱い負の相関を示すと予想される。よって,次の指標を用いた。(a) 幸福感:日本語版SLSS(吉武,2010),(b) 抑うつ:子ども用抑うつ自己評価尺度(DSRS)日本語版(村田ら,1996)。また,自己の強みへの注目は,自己の長所として記述された長所の個数とより強く相関し,他者の強みへの注目は,他者の長所として記述された長所の個数とより強く相関することが予想される。よって,本研究では,自分の長所と他者の長所について自由記述で回答を求めた。分析には自由記述で得られた (c) 自己の長所の個数と,(d) 他者の長所の個数を用いた。
結 果
 因子構造の検討 子ども用強み注目尺度に対して,重みづけのない最小二乗法,プロマックス回転による探索的因子分析を行った。固有値の減衰状況(7.24, 2.13, 0.89, 0.83, 0.69,…)および因子の解釈可能性から,2因子構造(合計15項目)を採用した。因子間相関は,r = .57であった。
 信頼性の検討 各因子のα係数を算出した結果,自己の強みへの注目(7項目)はα = .91,他者の強みへの注目(8項目)はα = .90であり,十分な内的整合性が示された。
 妥当性の検討 自己の強みへの注目は,幸福感と中程度の正の相関(r = .40),抑うつと中程度の負の相関(r = - .54)が示され,他者の強みへの注目は,幸福感と弱い正の相関(r = .25),抑うつと弱い負の相関(r = - .39),が示された。また,自己の強みへの注目は,自己の長所の個数と中程度の正の相関(r = .41)が示され,他者の長所の個数とは弱い正の相関(r = .25)が示された。一方,他者の強みへの注目は,他者の長所の個数とのみ弱い正の相関(r = .37)が示された(Table 1)。
考 察
 本研究の結果,妥当性に関しては,強みへの注目と長所の個数との相関が仮説通りであったものの,仮説よりも自己の強みへの注目と抑うつとの相関が高く,他者の強みへの注目と幸福感の相関が低かった。しかし,この結果は中学生が大学生よりも自尊心が低い年代であること(小塩他,2014)を考慮すると妥当な結果であると考えられる。また,信頼性に関しては,再検査信頼性の確認ができていないため課題は残るが,尺度の十分な内的整合性が確認された。したがって,本研究では,子ども用強み注目尺度の妥当性と部分的な信頼性が確認されたといえる。また,自己の長所の個数および他者の長所の個数との相関の強さの違いや,探索的因子分析の結果から,自己と他者の2つの強みへの注目は異なる概念であることが明らかになった。今後は,尺度の再検査信頼性の確認や,幅広い年齢の子どもに対する適用可能性について検討を行うことが望まれる。
引用文献
高橋 誠・森本 哲介 (2012). ポジティブ側面への積極的注目に関する研究: ポジティブ志向, 主観的幸福感, ネガティブ認知, 他者軽視との関連 東京学芸大学学校教育学研究論集,26, 29-39

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