発表

2D-012

社会情報が寄付先選択に与える影響

[責任発表者] 齋藤 美松:1,2
[連名発表者] 上島 淳史:1, [連名発表者] 谷田 林士:3, [連名発表者] 亀田 達也:1
1:東京大学, 2:日本学術振興会, 3:大正大学

<目的>
 人は格差や他者の不遇に対して無関心ではいられず、それを是正するための資源分配をすることが知られている(Fehr & Schumidt, 1999; Kameda et al., 2016)。しかし、資源は有限であるため、誰に資源を分配するのかという選択問題が極めて重要となる。特に寄付行為のような、遠隔の他者に対する資源分配においては、どれが望ましい寄付対象なのかの判断は容易ではない。そうした状況では一般に、他者の行動(社会情報)が、人々の意思決定に大きな影響を与えると考えられる。しかしこれまでの研究では、社会情報が寄付額にどう影響するかの研究が中心であり、寄付先選択と社会情報との関係は十分に理解が進んでいない。そこで本研究では、どのように社会情報が参照され、寄付先が決定されるのかを検討する。
 社会情報の参照方略としてまず予測されるのは、多数派同調である。過去の研究では、何が正しい選択か人々が確信できない場合、多くの他者が行なった選択への同調が生じることが明らかにされている(Cialdini & Goldstein, 2004)。多数派同調は、社会情報が寄付先に関する客観的情報(各寄付先の貧困度合いなど)の反映であると考えられる場合(情報的影響)でも、その選択肢を選ぶことが社会的な規範と感じられる場合(規範的影響)のどちらでも生じる現象だと考えられる。
 しかし、寄付行為が、より良い資源分配のあり方を実現させるべく行われるという点で通常の意思決定と異なると考えると、反同調が生じる可能性もある。つまり、多くの他者に選択されている寄付先を自分も支持すると、寄付先間の格差を拡大させてしまうと人々が考える(=社会情報が不平等回避傾向(Fehr & Schumidt, 1999)を喚起する)場合、少数派同調が生じるかもしれない。
 本研究では、これらの可能性を、行動実験及び視線追尾装置を用いた認知実験から検討した。
<方法>
Study 1:東京大学、大正大学の学生合わせて132名(男性77名)が参加した行動実験を行なった。参加者は、ユニセフで実際に行われている募金プロジェクトに協力するか否かの意思決定を行い、ここで協力すると答えた参加者について、2つの募金先 (アフリカ募金 or シリア募金)のどちらに募金するか、及びその募金額の決定をしてもらった。この決定の後、過去の実験参加者の募金状況として、以下の3条件が参加者間計画で提示された。
(1) Majority条件:自分が選択した募金先にすでに多くの募金が集まっている。
(2) Minority条件:自分が選択した募金先には少量の募金しか集まっていない。
(3) Control条件:過去の参加者の情報は与えられない。
 これらの社会情報が提示された後、参加者には1度目の決断を再確認する「最終決定」の機会が与えられた。この決定に基づき、参加者報酬の一部がユニセフに募金された。
Study 2:北海道大学の学生149名(男性85名)を対象に、Study 1と同じ行動実験を行ってもらい、その際の参加者の眼球運動を測定した。
<結果 と 考察>
Study 1:人々は、Majority条件に有意に偏って、最終決定の際に募金先を変更することがわかった(表参照, Fisher’s exact test p < .05)。自分の選択が社会的少数派に属するMinority条件において募金先の変更が観察されず、逆に自分の選択が社会的多数派に属するMajority条件において変更が観察されたことから、社会情報の典型的な参照方略と考えられる多数派同調と明確に異なった結果が得られた。これらの結果は、参加者が、あまり募金が集まっていない募金先を選択することによって、募金先間の格差を縮小させようとして生じた(不平等回避)ことを示唆している。
Study 2:不平等回避(情動的喚起を伴う; Hsu et al., 2008)がMajority条件における募金先の変更に果たした役割を調べるため、参加者の注視パターン及び、瞳孔サイズを検証した。なお瞳孔サイズの拡張率は、情動的喚起水準を反映する (Bradley et al., 2008)。注視パターン解析の結果、選択を変更したか否かに関わらず、募金があまり集まっていない募金先に対して多くの注視が向けられることが明らかとなった。しかし、瞳孔サイズの拡張率に注目すると、募金先を変更した参加者は、変更しなかった参加者に比べて、瞳孔サイズがより拡張していたことがわかった(F(1,49) = 5.09, p = .03)。高い情動喚起水準のもとで、寄付先が変更されていたということは、社会情報と不平等回避傾向との関係を示唆する。
 これらのことは、資源分配が関わる場面では、不遇な存在に対して敏感な心的反応(Kameda et al., 2016)が生じ、その他の意思決定場面とは社会情報が果たす役割が大きく異なるものになることを示唆した。
<引用文献>
Bradley, M. M., Miccoli, L., Escrig, M. A., & Lang, P. J. (2008). The pupil as a measure of emotional arousal and automatic activation. Psychophysiology, 45, 602-607.
Cialdini, R. B., & Goldstein, N. J. (2004). Social influence: Compliance and conformity. Annual Review of Psychology, 55, 591-621.
Fehr, E., & Schmidt, K. M. (1999). A theory of fairness, competition, and cooperation. The Quarterly Journal of Economics, 114, 817-868.
Hsu, M., Anen, C., & Quartz, S. R. (2008). The right and the good: Distributive justice and neural encoding of equity and efficiency. Science, 320, 1092-1095.
Kameda, T., Inukai, K., Higuchi, S., Ogawa, A., Kim, H., Matsuda, T., & Sakagami, M. (2016). Rawlsian maximin rule operates as a common cognitive anchor in distributive justice and risky decisions. Proceedings of the National Academy of Sciences, USA, 113, 11817-11822

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