発表

2C-049

認知課題中のプレッシャー状況が高齢者と若年者の心拍変動に及ぼす影響

[責任発表者] 須藤 智:1
1:静岡大学大学教育センター

目的
 時間制限や情動喚起によって生じるプレッシャーが認知的制御を妨害することが報告されている(Beilock & Carr, 2001など)。なぜ,プレッシャー下で認知的制御が妨害されるのか,メカニズムを明らかにすることは,近年,社会問題となっている高齢者の特殊詐欺の防止策の検討や,不安や怖がり(田中・原田,2007)などを感じやすい新奇な人工物の使いやすさの問題を考える上で重要である。
 プレッシャー状況での認知的制御の問題を扱う場合,実験室実験においてプレッシャー状況を再現する必要がある。その再現の方法として,時間制限を設けたり,教示において遂行目標を明示したり,他者が観察しているというシナリオを設定する方法がある(DeCaro et al,2011)。これらの手続きによって実験参加者にプレッシャー状況が生じたかどうかは,主観評価と認知課題のパフォーマンスへの影響を検討することで評価されているのが現状であり,どの程度プレッシャー下にあるのかについての客観的な指標については十分に開発されていない。その客観的指標の可能性として心拍変動が考えられる。心拍変動は,一般的に精神的・身体的負荷の客観指標として検討されており,認知課題中の精神的負荷が心拍変動へ影響を及ぼすことも報告されている(Laborde,2015等)。そこで本研究では,若年者と高齢者を対象とし,認知課題中のプレッシャー状況(観察圧と結果圧)が心拍変動にどのような影響を及ぼすのか,その心拍変動がプレッシャー状況の客観的指標となりうるのかを検討する。

方法
 参加者:高齢者24名(M=68.79歳(SD=2.67),若年者24名(M=19.58歳(SD=.83)),心臓系疾患の参加者はいなかった。
 測定機器:ウェアラブル心拍センサ WHS-1(UNION TOOL製)(サンプリング周波数=1000Hz)。心拍データの解析はKubios HRV(2.2)(Tarvainen et al.,2009)を使った。
 認知課題:10×10マス内に隠された経路を探し,その経路を学習して繰り返し回答を求めるThe Groton Maze Learning Test (GMLT) (Pietrzak.,et al,2007)を用いた。課題1セット中,同一経路を5回繰り返し探索する課題であった。経路刺激は本刺激3パターン,練習刺激1パターンを作成した。
 プレッシャー主観評価:状態不安尺度STAIを用いた。因子分析の結果,プレッシャー因子が抽出でき,その因子得点をプレッシャーについての主観評価得点(逆転項目)とした。
 手続き:GMLTを5ブロック(以下,nB)実施した。B間には3分間休憩を挿入した。1Bは練習1セット,第2,3BはGMLTを2セット実施した。4BはGMLTを1セット実施した。本課題Bで用いた経路刺激はカウンターバランスされた。B内の経路刺激は同一であった。1,2,5Bは,コントロール条件であり,できる限り早く・正確に実施することを教示した。3,4では,DeCaro et al.,(2011)に準じビデオ観察群には,将来動画を研究者らが分析するために録画すること,20%UP群には,前のブロックよりも20%以上,できる限り早く正確にルートを探すことを教示した。本課題ブロック中に心拍計測を実施し,課題後に主観評価アンケートへの記入を求めた。実験終了後は実験状況についてのデブリーフィングを行った。

結果・考察
 GMLTの詳細な結果は別途報告(若年者の各Bの平均課題時間=129.53s,高齢者=261.38s)する。LF/HFの平均値(図1)について年齢×条件×ブロック(4)の分散分析の結果,年齢の主効果[F(1,33)=10.83,p < .01,MSe=1.76,ηp2=.25]と条件×ブロック[F (4,132)=3.04, p < .05,MSe=.65,ηp2=.08]の交互作用が有意であった。単純主効果検定の結果,20%UP条件のブロックの単純主効果[F(4,132)=2.52, p < .05,MSe=.65,ηp2=.13]が有意であった。多重比較(Holm法)の結果,20%条件においてB2 < B4が有意であった(p < .05)。主観評価の平均値(図1下)について年齢×条件×ブロック(7,練習Bを含む)の3要因の分散分析の結果,条件の主効果[F(1,43)=4.12,p < .05,MSe=11.27,ηp2=.08]とBの主効果[F(5,215)=7.42,p < .01,MSe=2.64,ηp2=.15]と年齢×ブロック[F(5,215)=2.58, p < .05,MSe=0.92,ηp2=.05]の交互作用が有意であった。単純主効果検定の結果,若年者群においてブロックの単純主効果[F(5,215)=7.90,p < .05.MSe=2.81,ηp2=.22]が有意であった。多重比較の結果,20%条件においてB2 > B3, B3 < B5(逆転項目)が有意であった(p < .05)。
 LF/HF値の結果からはプレッシャー状況について若年者は心拍変動性が大きいが,高齢者では心拍変動性が低いことが示唆され,高齢者に対して心拍変動を利用することの難しさが示唆れた。主観評価でも,若年者はプレッシャー状況に対応した評価が可能であるが,高齢者の評価は安定しないことが示唆された。また、高齢者において観察圧の教示がうまく機能しなかった可能性が示唆された。今後、プレッシャー状況を生み出す教示の開発,高齢者のプレッシャー状況を測定可能な新たな客観指標の開発が必要であると考えられる。
 本研究はJSPS科研費 JP26870251の助成を受けたものです.

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