発表

2C-041

「影の運動による色の捕捉現象」の紹介、解釈、および実験観察によるその検証

[責任発表者] 中村 浩:1
1:北星学園大学短期大学部

目的
Fig.1からFig.2のように、灰色を背景として円周上に等間隔に配列された16個の黒丸が1個ずつ順に時計回りに消えては現れるという刺激を提示すると、その消えている時間が長い条件(たとえば250ms)では、Fig.1の空白の位置にその右側にあった黒丸が反時計回りに仮現運動する様子が知覚される。従ってその位置変化が一周する時の全体の動きとしては、次々と反時計回りに黒丸が一つずつ仮現運動を繰り返しているように知覚される。次にそれぞれの黒丸が消えている時間を短くすると(たとえば60ms)、反時計回りの一個一個の仮現運動は知覚されず、形の無い灰色が時計回りに回転運動している様子が観察される。この現象はHayashi (1990)がnew apparent motion (v-movement)として紹介したもの(鷲見(2014)は「林の影の運動」と呼んでいる)であるが、Hayashiは連続的なoff-neuronの反応による仮現運動として解釈している。

これを従来の運動検知モデルに照らし合わせてみると(Smith & Snowden,1994)、energy-based motion detectorおよびfeature-based motion detectorのうち、前者だけが機能している状況と考えることができる。何故ならば、運動対象の特徴である黒丸の運動は知覚されず、黒丸の位置変化に起因する明るさの変化だけを手がかりとした運動が知覚されるからである。
しかし、我々が日常生活の中心視において観察するほとんどの運動においてはこの二つの検知機能が同時に働いている。唯一energy-based motion detectorだけが機能する状況は、周辺視において、何かはわからないが、何かが動いたことだけはわかるという現象である。また、唯一feature-based motion detectorだけが機能する現象は、いわゆる二次運動と呼ばれるものである。この代表的なものは輝度変化を伴わない刺激のテクスチャの位置的変化によって知覚される運動であるが、この運動を日常生活において経験することはほとんどない。

この林の影の運動の一部(たとえば上下左右の4カ所)に色付きの○(たとえば青丸)を提示した場合(Fig.3参照)、その青丸の特徴がこの運動に捕捉されて青丸が円周上を一周するという運動が知覚される。これは「影の運動による色の捕捉現象」(中村, 2016)と呼ばれる錯視現象であるが、上記の運動検知機構に当てはめて考えると、検知されたenergy- based motionに青丸というfeatureが捕捉されたものと考えることができる。
本報告では、この錯視現象の紹介および解釈とその検証を目的として、いくつかの条件において観察されたことについて検討を加える。
実験刺激作成方法
上記現象を含め、全ての観察動画刺激はAdobe Director ver.11を用いて作成した。
観察1
もしenergy-based motionにfeatureが捕捉されたと考えるのであれば、本来的にenergy-based motion detectorが関与しないとされる二次運動においてはこのような捕捉現象は生じないことが予測される。そこで先述の「林の影の運動」の刺激条件の内、背景および位置変化をするターゲットをランダムドット図形とし、上下左右の4カ所に青丸を提示するという条件の時にどのような現象が観察されるかを検討した。
その結果、青丸の提示が無く、ターゲット(○)図形の消失時間が長い条件においては局所的な反時計回りの仮現運動は観察されず、消失および提示した位置の両方にランダムドット円図形が観察された。そして全体としてそれが順次反時計回りに観察された。そして消失時間を短くした時は前後の入れ替えが速く現れるだけで、観察された現象としては○図形が二つずつ時計回りの運動をするように観察された。そして青丸図形を4カ所に提示した場合、上記の捕捉現象は観察されなかった。
観察2
上記の捕捉現象が生じる条件においては消失および出現する黒丸の上下左右の4カ所の同位置に青丸を提示したが、この観察2では、Fig.4に示すように青丸の提示位置を円周の内側に○一個分ずらして、捕捉現象が観察されるかどうかを検討した。
その結果、この条件でも捕捉現象は観察され、青丸が時計回りの運動をする影の運動の内側を同様に一周する運動が観察された。しかしさらに内側にずらした場合は影の運動と青丸との独立性が増すためか、捕捉現象は認められなくなった。

結論
上記の観察結果から目的で述べた解釈が妥当であることが示された。

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