発表

2C-038

先天性光覚盲児による形態の呼称とはめ込み操作活動

[責任発表者] 鳥居 修晃:1
[連名発表者] 山田 麗子♯, [連名発表者] 望月 登志子:2, [連名発表者] 佐々木 正晴:3
1:東京大学, 2:日本女子大学, 3:弘前学院大学

目 的
 先天性光覚盲と診断された女児について,(1)保有光覚活用の可能性を探ること,(2)幾何光学的形態の触運動的な弁別および識別(呼称)とそれらの形態盤へのはめ込み操作活動の錬成を図ることを本研究の目標とする.
共同研究の経緯
 女児Kは視覚健常な両親に連れられ,国立リハビリテーションセンター(以下,国リハ)の眼科を訪れた際(当時1歳4カ月),次のような診断結果が示された.(i)両眼いずれについても先天性の疾患による視神経低形成の疑いがある.(ii)強い光に対しては閉瞼反応(僅かな瞳孔反応)が生じる.(iii)光覚が多少残っている可能性はあるが,活用してはいない.(iv)新しい場所では移動時に障害物にぶつかる.
 上記眼科部門から紹介ならびに依頼を受け,国リハの心理部門では検査室内の玩具ならびに幾何光学的形態板(紙製も含む)の「呼称」とそれを形態盤の凹部にはめ込む活動(はめ込み操作)を課題とする試みを取り入れることにした.女児および両親の協力のもとに眼科部門との連絡を保ちつつ,原則として1カ月に1回,所定の結果が得られるまで課題を実施する計画を立てた.
方 法
 (1)保有視覚とその活用状況: 眼球ならびに眼瞼の動きや特定光源の点滅に対する瞬き反応の状況,検査室内での障害物に対する回避行動の有無などにより推定する.
 (2)弁別・識別課題の設定: (i)2種類の形態板(木製その他)を用いた2項(N2)の弁別から始める.その際の「呼称」ないし「振り分け」の成果を記録し,併せてそれぞれの提示対象に対する手指操作状況を観察する.(ii)2項間の弁別が成立したとみなし得る段階で,3項(N3)間の識別課題に移行し,順次多項のそれへと進む.その都度,各課題に応じた「弁別箱」ないしは「はめ込み盤」を用いる.
 (3)2項間の弁別課題では,円と3角形をはじめに用い,状況をみて,正方形との対に移る.3項(N3)の識別課題でもはじめにこの3種を用いる.その成果を見届けた上で,4項(N4),多項(N8,N10)の識別課題へと移行する(Fig.1).多項の形態板の種類としては,6角形,十字,菱形,星形,楕円,半円,長四角などの形態が用いられた.

結 果
 結果の整理・分析には,各回の行動観察メモとその状況を録画したVTR映像を用いた.
(1)保有視覚に関しては,全期間を通じて,最初の眼科診断をほぼ裏書きする状況が観察された.眼球の動きは次第に活発になった(1歳11ケ月.1:11と略記)ものの,「眼を閉じていることが多い」(2:04)と記載されるようになった.
(2)障害物に対処する動作が出現したと思われる時期は検査室に関する限り,行動観察開始後約1年(2:03)頃である.
(3)円と3角の弁別課題から出発し得る状況になったのは,開始後約1年後(2:05)を経た時点である(2001.1.24).その4カ月後(2:09)に4試行すべて正解という成果が初めて得られたが,4角と3角に対する弁別の正解率はチャンス・レベルの状態であった.さらに,この状態で3項(N3)の識別課題を試みたものの,続行困難で,2N(円と3角)でさえ困難となった.半年後(3:04),N2,N3が可能になり始め,その2カ月後(3:06),初めて自発的に「マル」,「サンカク」と呼称するに至った.課題への誘いにも「する」と応じるようになる(3:07).
そこで,新たにN4の課題を導入(3:09.2002.5.9)し,結果はまだ必ずしも十分でなかったが,次回(3:10)からはN10の「呼称とはめ込み」の課題を思い切って開始することにした.この課題を基本とする試行をその後約1年にわたり継続して,Fig.2に示すようなそれぞれの成果を得た.

考 察
3~4項課題(N3~N4)の段階からすぐにN10に移行するのは、飛躍し過ぎではないかとの懸念もあった.それでも,「呼称」に関しては、即答が得られなくても語頭,例えば「ダ」を示唆することですぐ呼称に至るという段階を経て,開始後5回(4:02;2002.10.17)以降には正解率90%のレベルに到達している.他方「はめ込み」課題の成功率にはそれに呼応するような経過が認められなかったので,「重ね合わせ」課題(はめ込む活動を省く)を途中で導入したところ,最終段階(4:10)には,はめ込みの成功率も70~80%に到達している.
♯:共同研究者山田麗子氏は2009年5月に逝去された.
謝辞:佐々木恭子氏(乳幼児行動研究会)の協力を得た.

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