発表

2C-030

中学生のメンタルヘルスに対する学校ベースの認知再構成法

[責任発表者] 岸田 広平:1,2
[連名発表者] 石川 信一:1
1:同志社大学, 2:日本学術振興会

目 的
 Hofmann (2011) はBeckやEllisの認知モデルの様々なメンタルヘルスの問題への適用可能性の高さを指摘している。つまり, 認知モデルに基づく認知再構成法は, 複数のメンタルヘルスの問題に対して有効な診断横断的介入であると言える。学校には様々なメンタルヘルスの問題を抱える児童生徒が混在しており (Mennuti et al., 2012), 学校において認知再構成法に基づく介入を実施することで, 多くの生徒が恩恵を受ける可能性がある。本研究では, 中学校での学校ベースの認知再構成法を実施し, 不安症状, 抑うつ症状, および, 怒り感情といった様々なメンタルへヘルスの問題に対する有効性を検討することを目的とした。その際, 怒りに関連する推論の誤りを測定する尺度を作成することを副次的な目的とした。

方 法
対象者 介入群の対象者として, 公立中学校の1, 2年生79名 (男子42名, 女子37名) が本研究に参加した。介入前と介入後の計2回の質問紙調査を実施した。調査実施は2017年10月下旬と11月下旬であり, 介入実施は11月上旬であった。
測定尺度
スペンス児童用不安尺度 (Short CAS: Spence et al., 2014) 不安症状の測定は8項目からなるShort CASを用いた。得点が高いほど不安症状が高いことを示す。
Birleson自己記入式抑うつ評価尺度 (DSRS-C: 並川ら, 2011) 抑うつ症状の測定はDSRSの9項目短縮版を用いた。得点が高いほど, 抑うつ症状が高いことを示す。
子ども用怒り感情尺度 (ASCA: 野口ら, 2006) 怒り感情の測定には7項目からなるASCAを用いた。得点が高いほど, 怒り感情が高いことを示す。
児童用推論の誤り尺度改訂版 (CCES-R: 佐藤ら, 2004) 不安や抑うつに関連のある推論の誤りの測定にはCCES-Rを用いた。得点が高いほど, 推論の誤りが高いことを示す。
子ども用怒り推論の誤り尺度 (ACEQ-C) 本研究では, 怒りに関連する推論の誤りを測定するための新たな尺度を作成した。小学4年生から中学3年生の合計93名を対象に自由記述を用いて, 怒り場面を収集した。大学院生3名が収集された場面の整理検討を行った結果, 15場面 (友人場面, 教師場面, 親場面) が選定された。続いて, Martin & Dahlen (2007) を参考に「注意の誤帰属・過度の一般化・扇動的ラベリング・過度の要求・破局的評価」をそれぞれ3項目ずつ作成した。最後に, 大学教員1名による内容的妥当性の検討を行った。その結果, 15項目がACEQ-C暫定版として用意された。なお, 本研究では親場面を除いて, 友人・教師場面の12項目を用いた。得点が高いほど, 推論の誤りが高いことを示している。
介入内容 プログラムは3部構成であり, 各部30分から構成された。通常の授業時間を利用して, 3部連続して実施された。プログラムは大教室を利用して, 1年生と2年生の合同参加で実施された。第1部は「心理教育」であり, さまざまな感情の同定する練習を行った。第2部は「認知の同定」であり, 考え方の違いによって, 喚起される感情がことなることを学習した。第3部は「認知の変容」であり, 偏った思考パターンを変容する方法を学習し, グループワークを用いて, 柔軟な思考パターンを案出する練習を行った。プログラムは児童青年に対する認知行動療法を専門とする大学教員が実施し, 大学院生と大学生の3名が補助を行った。

結 果
分析対象者 79名のうち, 2回の調査において欠席者と記入漏れ・記入ミスのあったものを除き, 72名を分析対象とした。
ACEQ-Cの信頼性と妥当性 ACEQ-C は探索的因子分析の結果1因子構造が示され, 高い内的整合性が示された (α = .80)。ACEQ-Cと推論の誤りを測定するCCES-Rとは中程度の正の相関 (r = .54), 怒り感情を測定するASCAとは弱い正の相関が確認された (r = .32)。なお, CCEC-RとASCAには有意な関連が見られなかった。このことから, ACEQ-Cは怒りに関連する推論の誤りを測定する尺度として, 十分な信頼性と妥当性を有する尺度であることが確認された。
全体における変化 CCES-Rは介入前後に有意に減少することが確認された (t (71) = 5.04, p < .00)。また, ACEQ-Cについても介入前後に有意に減少することが確認された(t (71) = 2.62, p < .05)。次に, メンタルヘルスに関する変数を検討した結果, 不安症状は介入前後において, 統計的に有意に改善することが示された (t (71) = 2.57, p < .05)。また, 怒り感情においても介入前後に, 統計的に有意に改善する傾向が示された (t (71) = 1.93, p < .10)。一方, 抑うつ症状については, 統計的に有意な変化は確認されなかった (t (71) = 0.00, ns)。

考 察
本研究は、中学校において学校ベースの認知再構成法を実施し, 中学生のメンタルヘルスが改善するかどうかを検討することを目的とした。分析の結果, 本研究において実施された介入は中学生の推論の誤りを改善し, 不安症状や怒り感情といったメンタルヘルスの問題を改善することが示唆された。
 従来, 認知再構成法は子どもの不安や抑うつに用いられてきた。本研究では, 学校ベースの認知再構成法が怒り感情と怒りに関連する推論の誤りに対して適用可能であることを示した。今後は, 怒りに関連する問題に対する認知再構成法の有効性についても, 知見を積み重ねていることが望まれる。

引用文献
Martin, R. C., & Dahlen, E. R. (2007). The Angry Cognitions Scale: A new inventory for assessing cognitions in anger. Journal of Rational-Emotive & Cognitive-Behavior Therapy, 25, 155-173.

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