発表

2B-093

中国における中高生の課外スポーツ指導の現状:Bukatsuの文化心理学(4)

[責任発表者] 尾見 康博:1
[連名発表者] 渡辺 忠温:2
1:山梨大学, 2:東京理科大学

目 的
 日本の部活動,とりわけ運動部が国際的に見てきわめてユニークな活動であることはこれまで繰り返し指摘されてきた(中澤,2014; Omi,2015)。そして,そのユニークさは文化的に深く根ざしており,部活動の国際比較とか課外スポーツの国際比較といった形で示されるものだけでは,部活動の独自性を捉え損なうと考えられる。ただし,中澤(2014)のように「運動部活動」という名称を用いると,運動部ではないものの部活動の特異性を共有していることの多い吹奏楽部などを対象外としてしまうことになる。そこで第一著者は,Bukatsu (部活)と標記しこの特異性を表現している(Omi,2015)。
 中等教育段階のスポーツの場を,学校中心型,学校・地域両方型,地域中心型の3つに分類した中澤(2014)によると,学校中心型とされるのは,34カ国中,日本,中国,台湾,韓国,フィリピンの5カ国であり,東アジアの特徴であるようにもみえる。しかし,中国や韓国では一握りのエリートだけしか参加しておらず(中澤,2014),とりわけ中国では国家に貢献するアスリートを選抜,育成するという側面が強く,同じ東アジアの学校中心型でもその内実は異なることが予想される。また,中国では前世紀末から経済成長が著しく,アスリート育成を取り巻く環境もまた,著しく変容している。一例として,1990年には「学校体育工作条例」が施行され,体育が卒業,進学のための試験科目であると明記された。
 そこで本研究では,中国の課外スポーツの制度や指導方法の実状を把握し,同じ学校型に位置づけられる日本の部活動が東アジアの文脈でどこまで独自であるかについて検討する。

方 法
 中華人民共和国北京市にある学校課外スポーツ及び,民間地域クラブスポーツの練習風景を観察し,コーチへの半構造化インタビューを実施した。
対象:中国人民大学附属中学における武術,陸上,および同附属中学三高基地におけるサッカー。地域クラブは天天尚翔バスケットボールクラブ。
質問内容:中高生の課外スポーツの制度や指導方法について。
実施時期:2016年11月

結果及び考察
 インタビューの結果に加え,片岡(1992)なども参考にすると,中国におけるアスリート育成のモデルは図のようになる。伝統的なアスリート育成のコースは,育成のプロセスが2つある。大学系チームからナショナルチームに進む一般の学校教育中心のプロセス(図左)と,省・市・自治区代表チームなどから進む競技スポーツ重視の学校を経るプロセス(図中央)である。それに加えて近年では,商業化に伴うプロチームが現れたり,大衆化,娯楽化に伴い,地域や民間のクラブが展開し,生涯スポーツ,あるいは受験塾のような機能を果たすものまで現れたりしている。また,人民大学附属中学三高基地では,アスリート育成高校であると同時に,学業面にも相当な力を入れ,難関大学への進学実績も高く,スポーツとは無関連の就職も可能にする教育がなされていた。こうした傾向は従来の育成の図式では説明しきれない面がある。スポーツ(アスリート)指導と学業の融合への動きは第一著者によるドイツやフランスの調査でも聞かれたことであるが,これは日本の部活動とはむしろ逆の動きのように見える。
 指導方法については,特に体罰に対する考え方が興味深かった。「中国では体罰が多かったが減ってきた」(サッカーコーチ,陸上コーチ)と言うものの,2009年に重慶で中学生がコーチに体罰を受け死亡する事件が発生しているなど,体罰はほとんどない,というところまではいっていないようであった。「体罰には効果があるとは思うが学校は禁止している」「とはいえ体罰が必要な子もいるだろう」といった発言はそのことを暗示しているとも言えるだろうし,少なくとも欧米のコーチや保護者のインタビューで聞くことはなかった。
 体罰という点で見ると,依然としてその有効性から逃れられていないという意味で,日本と中国のスポーツ指導における課題は類似しているように思われる。

<引用文献>
片岡義則 (1992). 中国の児童・少年の業余体育活動に関する研究 日本体育学会大会号,43,846.
中澤篤史 (2014). 運動部活動の戦後と現在 青弓社
Omi, Y. (2015). The potential of the globalization of education in Japan: The Japanese style of school sports activities (Bukatsu). In G. Marsico, V. Dazzani, M. Ristum, & A.C.S Bastos (eds.) Educational contexts and borders through a cultural lens: Looking inside, viewing outside. Springer, Pp.255-266.

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