発表

2B-091

罹患犬を有する飼い主における心気症傾向と心理的ストレス

[責任発表者] 石原 俊一:1
1:文教大学

目 的
近年,飼い主がペットに対して生涯を共にするような社会的・情緒的つながりを感じることが増加している。現代の獣医医療技術が発展する中で,ペットの罹患する問題が減少し,寿命が年々延び,ペットの高齢化が進んでいる。ペットの高齢化が進むと,飼い主とペットがともにいる時間が長くなり,ペットへの依存度も変化していく。それに伴い,近年ではペットロスに悩まされる問題が増加している。ペットを喪失した際,飼い主は家族を喪失したときと同じ悲しみを感じ,飼い主のペットに対する愛着が高いほど,その悲しみは高くなる。飼い主がペットに愛着を持つほど,ペットを喪失した際,飼い主に心理的影響を与える。すなわち,ペットの喪失が飼い主に心理的影響を与えることと同様に,ペットの罹患が,飼い主に心理的影響を及ぼすと考えられる。このペットの喪失による悲嘆は心理的な変化だけでなく,身体的変化をも引き起こす。ペットロスの際に観察される身体的悲嘆反応の症状として睡眠障害,消化器症状,頭痛,食欲異常などがあげられる。
ペットロスの状況に至らない場合でもペットが何らかの疾患を罹患したストレス事態もペットロスに準ずる心身の症状が生じ,特に身体的症状の自覚により飼い主が心気症傾向に陥ることが考えられる。本研究では,我が国で最もペット保有率の高い犬に着目し,罹患した動物が飼い主に与える心理的影響について,動物病院に通う疾患を持つ犬の飼い主を対象に検討する。そこで,飼い主が心気症傾向に陥り,心理的ストレスが増加し,ペットに対する主観的重症度を過大もしくは過小評価すると考えられる。その評価の変動が,飼い主の主観的重症度と獣医の客観的重症度に不一致が生じると考えられる。また,飼い主が心気症傾向に陥ったときや心理的ストレスが増加したとき,飼い主はペットに対して癒しを求めると考えられる。以上の仮説を検証することが,本研究の目的である。
方 法
被調査者:埼玉県内にある動物クリニックに来院した犬の飼い主男性18名(平均年齢=51.1歳,SD=13.24),女性110名(平年齢=48.7歳,SD=12.62)の合計128名(平均年齢=49.0歳,SD=12.68)であった。本調査は,2014年10月から2015年10月の期間で実施された。
質問紙:(1) Short Health Anxiety Inventory日本語版:心気症を測定するために,Short Health Anxiety Inventory日本語版を使用した。(2) 飼い主に自身の愛犬による癒し尺度:飼い主に自身の愛犬への癒しに関する尺度を独自に作成した。下位尺度として,ペットの仕草尺度,ペットとの交流尺度,ペットの芸事尺度で構成されている。(3) 心理的ストレス反応尺度(Stress Response Scale-18: SRS-18):心理的ストレス反応を測定するため,SRS-18を使用した。(4) 飼い主の主観的重症度尺度:飼い主から見た犬に対する病状の重症度に関する1項目を作成し,回答を求めた。(5) 獣医師の客観的重症度尺度:獣医師による罹患した犬の診断に関する1項目を作成し,獣医師による犬の重症度を判定した。
手続き:本調査は,動物クリニックに来院した犬の飼い主に“罹患犬の飼い主の心理的ストレスに関する調査”について説明を行い,同意を得られた飼い主にのみ,同意書への署名と質問紙への回答を求めた。質問紙の回答はクリニック内の診察室または待合室において個別に行った。質問紙はその場で回収をした。
結 果と考 察
心気症調査尺度の下位尺度“メインセクション”,“ネガティブ結果予期”,ペットの癒し調査尺度の下位尺度“ペットの仕草”,“ペットとの交流”,“ペットの芸事”,SRS-18の下位尺度“抑うつ・不安”,“不機嫌・怒り”,“無気力”とし,各尺度の下位尺度ごとに粗点の合計を算出し,その値を基に重回帰分析を行った。
以上の重回帰分析結果をまとめると,犬の罹患は飼い主の心気症傾向に繋がり,抑うつ・不安,不機嫌・怒りを高めると考えられる。また,心気症傾向を持つ飼い主は,ペット側からのアプローチによって癒しを感じ,このペット側からの接触により飼い主の心理的健康が高まることが考えられる。一方で,抑うつ・不安の高い飼い主は,ペットと飼い主の双方からのアプローチで癒しを感じると考えられる。飼い主がペットと相互的にかかわりを持つことが心理的健康を高めると考えられる。
次に飼い主の主観的重症度との関連では,飼い主の不機嫌・怒りが高いと主観的重症度は高くなり,無気力,ネガティブ結果予期が高いと主観的重症度は低くなると考えられる。さらに,主観的重症度が高い飼い主は,ペットの症状を過大評価し,獣医師の客観的重症度との見立てと乖離が生じると考えられる。

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