発表

2B-073

幼児の感謝理解とその関連要因

[責任発表者] 清水(加藤) 真由子:1
[連名発表者] 青木 奈美#:1, [連名発表者] 乾 愛有美#:1, [連名発表者] 金澤 忠博:1, [連名発表者] 日野林 俊彦:2
1:大阪大学, 2:藍野大学

目 的
感謝とは、私たちが日常的に経験する感情である。感謝には、他者からの向社会的行動に対する返報を動機づける感情として、また受益者の第三者への向社会的行動を動機づける感情としての特徴があると指摘されており (Trivers, 1971; Nowak & Roch, 2007)、集団や社会を構築し、協力関係を維持する上で重要な役割を果たしていると考えられる。「ありがとう」という言語的な感謝の表現は3-4歳児でも自発的に見られる (Becker & Smenner, 1986) 一方、礼儀正しく振る舞うことと感謝の感情を本当に理解することは異なることも指摘されている (Freitas et al., 2011)。どういった状況で感謝を感じ、感謝を感じた時にどう振る舞うのかという「感謝の理解」は、どのように発達するのだろうか。
Nelson et al. (2012) によると、5歳児は完全には理解していないものの、一定程度の感謝理解を示す。また5歳時点の感謝理解の程度は3歳時点での感情理解、4歳時点の心的状態理解によって予測できることが示されている。ここで検討されている感情理解、心的状態理解といった認知的な能力に加えて、感謝理解には他者とのやり取り経験が影響すると考えられる。特に同年齢他児とどのような関係を築いてきたのかというこれまでの仲間関係は、感謝理解の発達にとって重要な意味を持つだろう。感謝理解にどのような要因が影響するのかを明らかにすることで、幼児期の感謝に関する道徳教育のあり方を論ずる際の一助となるかもしれない。
本研究では5-6歳児の感謝理解が4-5歳時点の社会的認知能力や仲間関係の影響を受けているのかを検討することを目的とした。

方 法
・研究協力児
 大阪府内のこども園に在籍する36名 (男児26名、女児10名) を協力児とした。4-5歳での研究開始時の平均月齢±SDは61.39±3.73ヵ月、5-6歳での研究開始時の平均月齢±SDは73.62±3.54ヵ月であった。
・手続き
4-5歳時に、心的状態理解を測定するための理由付けを含む誤信念課題、抑制能力を測定するためのDCCS課題、言語能力を測定するための絵画語い発達検査、そして仲間関係を査定するための行動観察を行った。行動観察では、クラス全体のスキャンサンプリングを1名につき平均31.86 (R: 15-43)回行い、協力児が誰と1m以内に近接しているのかを記録した。記録データを用いて、重みあり社会ネットワーク中心性 (近接の有無だけでなく、近接回数も反映した指標) を算出した。
5-6歳時に、感謝理解を測定するための感謝理解課題を行った。課題はNelson et al. (2012) を参考に作成し、主人公 (受益者) が困っているところを友達または祖母 (利益提供者) が助けてくれたという場面を想定し、受益者の感情とその理由、受益者はお返しに利益提供者を助けるべきかどうかとその理由を回答させた。回答内容にもとづき、以下の通り得点化した。主人公のポジティブな感情、ポジティブな感情と利益提供者との関連、主人公が利益提供者を援助するかを採点項目とし、それぞれの有無によりそれぞれ1点または0点を与えた。次に、主人公の援助に対する理由付け質問について、協力児の回答内容をもとに分類・得点化した。「利益提供者に感謝した恩返し」には3点、「ネガティブな結果の予防」には2点、「社会的慣習」には1点、「単なる事実」「無回答」「非論理的・解釈不可能」には0点を与えた。採点項目と理由付け質問の得点を合計した得点を、協力児の感謝理解得点とした。得点範囲は0~6点であった。

結 果 と 考 察
5-6歳時の感謝理解に影響を与える要因を検討するため、4-5歳時の誤信念課題得点、DCCS課題得点、絵画語い発達検査得点、仲間関係における中心性を独立変数、5-6歳時の感謝理解得点を従属変数とした重回帰分析 (ステップワイズ法) を行った。分析の結果、従属変数を有意に予測する独立変数はなかった。
次に男児と女児に分けて、同様の分析を行った。その結果、男児においてはいずれの独立変数も従属変数を有意に予測していなかったが、女児においては予測変数として4-5歳時の仲間関係における中心性 (β=0.68, p<.05) が選択された (R2=0.46, p<.05)。つまり、女児においては4-5歳時に様々な相手とより多くのやり取りをしている児ほど、5-6歳時にどういった状況で感謝を感じるのか、また感謝を感じた時にどのように振る舞うべきなのかをよく理解していたといえる。この結果から、男児と女児とで感謝理解の影響プロセスが異なる可能性が考えられた。

引用文献
Becker, J. A., & Smenner, P. C. (1986). The spontaneous use of thank you by preschoolers as a function of sex, socioeconomic status, and listener status. Language in Society, 15, 537-545.
Freitas, L. B. F., Pieta, M. A. M., & Tudge, J. R. H. (2011). Beyond politeness: The expression of gratitude in children and adolescents. Psychology: Reflection and Criticism, 24, 757-764.
Nelson, J. A., de Lucca Freitas, L. B., O’Brien, M., Calkins, S. D., Leerkes, E. M., & Marcovitch, S. (2013). Preschool-aged children’s understanding of gratitude: Relations with emotion and mental state knowledge. British Journal of Developmental Psychology, 31, 42-56.
Nowak, M. A., & Roch, S. (2007). Upstream reciprocity and the evolution of gratitude. Proceedings of the Royal Society B, 274, 605-609.
Trivers, R. L. (1971). The evolution of reciprocal altruism. The Quarterly Review of Biology, 46, 35-57.

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