発表

2B-066

対人関係ストレスの想起による感情変化と生理変化・反芻傾向との関連 -臨床技法を用いた感情操作法の妥当性の検討-

[責任発表者] 小澤 幸世:1
[連名発表者] 中谷 裕教#:2, [連名発表者] 宮内 誠カルロス#:3, [連名発表者] 川本 大史#:1,4, [連名発表者] 吉本 廣雅#:1, [連名発表者] 開 一夫#:1,2, [連名発表者] 長谷川 寿一:1,2
1:東京大学, 2:東京大学進化認知科学研究センター, 3:首都大学東京, 4:日本学術振興会

目 的
 知覚刺激を用いた感情操作法は,刺激への注意を伴うボトムアップ処理の感情を誘導するが(Ochsner et al., 2009),日常的には思考を伴うトップダウン処理の感情を体験することが多い。本研究では,日常生活で誰もが体験したことがある対人関係ストレスを想起させ,トップダウン処理の不快感情を誘導した。これにおいて,感情変化と,想起に伴う生理的変化および内面的自己に注意を向けやすい傾向である私的自己意識との関連を検討し,本想起法の感情操作法としての妥当性を検討した。なお想起しやすさを高めるため,半構造化された一連の質問の呈示など,心理臨床で用いられているいくつかの技法を採用した。
方 法
本研究では,自律神経系の活動に関連する瞳孔径と体表温度を測定する行動実験と,機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)の実験の2つの実験を実施した。東京大学の倫理審査委員会の承認を受けて行われ,全参加者から参加への同意を得た。
対象者 行動実験は眼鏡の装着がない大学生23名(男性13, M ±SD = 20.46 ± 2.22; 女性10, M ± SD = 22.20 ± 3.39),fMRI実験は右利きの大学生21名(男性13, M ±SD = 20.69 ± 1.65; 女性8, M ± SD = 20.00 ± 0.93)であった。
機材 瞳孔径はアイトラッキングシステムTobii(Tobii Technology),体表温度はサーモグラフィ(FLIR SYSTEMS)で計測した。脳活動は東京大学の駒場に設置された3TのMagnetom Prisma(Siemens)のMRI装置を使用した。
測度 (a) 日本語版PANAS(The Positive and Negative Affect Schedule, 佐藤・安田,2001):簡易に気分を測定する。「ポジティブ情動」(PA)と「ネガティブ情動」(NA)で構成される。(b) Rumination-Reflection Questionnaire 日本語版(RRQ, 高野・丹野,2008):私的自己意識を測定する。「反芻」と「省察」で構成される。
手続き 参加者は画面呈示される「対人関係ストレスを感じた不快体験」に関する一連の質問(想起プロトコル)に従い,その時の不快な体験や感情を想起した。想起プロトコルは,3名の臨床心理士によって作成され,5期間(図1)で構成された。最後の不快感情想起の質問では,不快感情を再度想起することを求めた。参加者は各質問に対し十分な想起ができた後,キーを押して次の質問に移ることが指示された。想起に要する時間は,5~8分程度であった。
感情評価 日本語版PANAS(行動実験のみ)と不快度の質問(1項目, Q1)で想起前後に感情状態を評価した。
結 果
 想起前後の感情変化については,両実験で想起後に不快度(Q1)が有意に高まっていた(t(21)=6.79, p < .001; t(20)=7.31, p < .001)。行動実験ではポジティブ情動の減少(t(22)=-3.06, p < .01)とネガティブ情動の増加(t(22)=3.21, p < .01)が有意であった。ネガティブ情動変化と「中核的質問」の瞳孔径変化には有意な負の相関があった(左右, r=.46, .48, p < .05, 図2)。最後の不快感情想起の質問において偏桃体と側頭極のROI分析を行った。右側の扁桃体と右側の側頭極が有意に活性化していた(small volume correction, p < .05 corrected, 図3)。ネガティブ情動変化は反芻と有意な正の相関を示した(r=.44, p < .05, 図4)。省察との有意な相関はなかった(r=1.0, n.s.)。(体表温度は発表当日に示す予定)
考 察
快感情の減少と不快感情の増加が有意であり,本想起法による主観的感情変化が確認された。精神病理に関連する反芻傾向が高い者ほど,不快感情は高まる傾向があった。不快感情変化は,覚醒度に関連する瞳孔径と有意な負の相関を示し,内省状態に入ることで覚醒度が低下した者程,不快感情が誘導され,瞳孔径が縮小した可能性がある。脳活動については,情動処理を行う扁桃体だけでなく,社会的情動に関わる側頭極の活性が認められた。トップダウン処理の感情では,扁桃体に加えて前頭前野や側頭野が活性することが指摘されており,対人関係ストレスの想起により,思考を伴うトップダウン処理の不快感情が誘導されたことが示唆された。

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