発表

2B-064

ほめることがほめ手の動機づけに与える影響 内発的動機づけと知能観に及ぼす効果

[責任発表者] 柿沼 亨祐:1
[連名発表者] 田中 あゆみ:1
1:同志社大学

問題と目的
多くの先行研究は,ほめ方によって受け手の動機づけへの影響が異なることを示している (レビューとしてHenderlong & Lepper, 2002)。例えば,Mueller & Dweck (1998) は,能力についてほめられると,能力は決まっていて変えられないという固定的知能観が強まり,失敗を経験した場合に行動が持続しない一方,努力についてほめられると,自分の能力は努力によって変えられるという増大的知能観が強まり,失敗を経験した後も行動が持続することを示した。
これまでほめの受け手への影響については数多く検討されてきた。しかし,ほめる側,つまり「ほめ手」への影響についてはほとんど注意が向けられていない。教育現場において生徒同士でほめることが推奨されていることを踏まえると (e.g., 福岡県学校教育振興プラン, 2015),ほめ手への影響についても検討する必要がある。
本研究では,ほめることがほめ手の動機づけに与える影響について検討した。Henderlong and Lepper (2002) によると,ほめは他者に対するポジティブな評価と定義できる。評価やコミュニケーション場面において,ある立場に対する意見を述べさせられると,それだけで話し手の私的意見が自分の公言した方向へ変化することが示されている ("Saying is believing" effect" (Greenwald, 1969; Janis & King, 1954))。
これらの研究に基づいて,ほめるという評価行為は,ほめ手自身の評価の仕方・知能観に影響を与え,ほめ手の動機づけに影響を与えると考えた。能力についてほめることはほめ手の固定的知能観を強め,失敗経験後の動機づけにネガティブな影響を与える。努力についてほめることはほめ手の増大的知能観を強め,失敗経験後の動機づけにポジティブな影響を与えると予測した。
方法
実験参加者 大学生77名を (女性49名;平均年齢20.09歳) サクラを能力でほめる能力ほめ群,努力でほめる努力ほめ群,ほめない統制群のいずれかに割り振った。サクラ4名が実験に協力した。
手続き (1) 実験参加者が先輩,サクラが後輩という設定で,自己紹介と簡単な交流を行った。(2) 参加者とサクラはそれぞれ中程度の難易度の課題に取り組み,成功経験をした。(3) 能力ほめ群,努力ほめ群では,参加者がサクラをほめた。(4) 参加者は難しい課題を行い,失敗を経験した。(5) 参加者の動機づけを測定した。
測度 (1) 課題の楽しさ (Ryan, 1982): 課題の楽しさに関する3項目について7件法で回答を求めた。(2) 持続性 (Cimpian, Arce, Markman & Dweck, 2007): 課題を続けたいかどうかに関する4項目について7件法で回答を求めた。(3) 恥ずかしさ: 課題後に恥ずかしさを感じる程度ついて5件法で回答を求めた。(4) 知能観 (Dweck, 1999): 増大理論,固定理論,それぞれ4項目,合計8項目について6件法で回答を求めた。分析の際,固定理論の値を逆転し,増大理論の項目と合成した。したがって得点が高いほど,増大理論が強いことを示す。
結果と考察
各変数において,各ほめ群と統制群を比較し効果量 (Cohen's d) を算出した (Table 1)。正の値は各ほめ群の値が統制群よりも高いことを,負の値は低いことを示す。
課題の楽しさ 能力ほめ・努力ほめのどちらについても効果量の値は小さく,ほめによる影響は見られなかった。
持続性 能力ほめ・努力ほめの効果量は中程度の負の値を示した。信頼区間に0を含まず,ほめることは失敗経験後の持続性を減少させることが示された。ほめ方に関わらず,ほめることはほめ手の持続性にネガティブな影響を与えることが明らかとなった。
恥ずかしさ 能力ほめの効果量は小さいものの,努力ほめの効果量は大きな負の値を示し,信頼区間にも0を含んでいなかった。努力についてほめることは,失敗経験後の恥ずかしさを上昇させることが示された。努力ほめは感情に対してもネガティブに影響することが示され,受け手に関する先行研究とは異なる結果となった。
知能観 能力ほめ・努力ほめのどちらについても効果量の値は小さく,ほめによる影響は見られなかった。ほめることはほめ手の信念には影響を与えない可能性が示唆された。
本研究は,ほめることがほめ手にネガティブな影響を与えることを示した。しかし,ほめから知能観への影響は見られず,どのようなメカニズムで影響が生じているかについては明らかではない。今後はより状況的な変数である,帰属や自己評価による媒介について検討する必要があるだろう。

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