発表

2B-041

目撃者聴取に対する大学生の意識調査

[責任発表者] 福島 由衣:1
[連名発表者] 厳島 行雄:2
1:日本大学人文科学研究所, 2:日本大学

目 的
 裁判官や裁判員は目撃者の信用性・正確性を,その供述から判断しなければならない。だが,警察による誘導の影響を心理学の非専門家である人々は予測できるのだろうか。もし裁判官や裁判員が,警察官からの誘導を過小評価し,目撃者が誘導されるはずがないと考えている場合は,目撃証人が誘導的で不適切な識別手続きを受けていた可能性に対する疑いが挟まれることなく,誤った識別が証拠として採用されてしまうかもしれない。だが,目撃証人が社会的影響を受けている可能性について助言する心理学者の専門家証言があれば,たとえ裁判官や裁判員が誘導の影響について過少評価していたとしても,注意を促すことができる。しかしながら,心理学的知識は非専門家でも予測し得る「常識」であると考えられ,法廷での専門家証言は必要ではないと,裁判所に排除されることがあるという (Deffenbacher & Loftus, 1982)。そこで本研究では,非専門家である一般の学生は面接者による誘導の影響を過少評価することなく,「常識」の範囲内でその影響を適切に予測可能なのかどうか調査する。
方 法
 参加者 短期大学1校,4年制大学2校に在籍する学生338名(男性150名,女性187名,不明1名,平均年齢18.90歳 (SD=1.56))を対象に質問紙調査を実施した。参加者の専攻分野の内訳は,幼児教育学,法学,文学であった。 
 調査用質問紙 質問は6つの種類からなる28問で構成した。その内訳は,(1) 警察の捜査手法について(たとえば,「容疑者逮捕に有力な目撃証言を引き出すためには,警察官は聴取する目撃者に,他の目撃者が何と証言しているか,参考までに情報を与えても構わない」),(2) 目撃者の正確性・信頼性評価について(たとえば,「訓練された警察官や検察官,裁判官であれば,一般市民よりも目撃証言が正確か不正確なものかを見分ける能力に優れている」),(3) 目撃者としての自分の能力評価(たとえば,「窃盗事件の目撃者として警察に呼ばれ,呈示された写真の中に目撃した人物がいるか見て欲しいと言われたら,写真の中から容疑者を正しく選べると思う」),(4) 専門家証人について(たとえば,「警察による目撃者聴取の方法について,学問的知識に基づいた専門家証人(法学者や心理学者)の意見を,裁判員や裁判官が聞くことは判断の役に立つと思う」),(5) 誤った目撃証言の割合(たとえば,「目撃証言に誤りが含まれる割合はどれくらいだと思いますか」), (6) 目撃証言についての知識の有無(「目撃証言についての講義や講演を聴講したことはありますか?」) ,であった。このうち, (1) から (4) の質問には1「そう思わない」から5「そう思う」の5段階のリッカート法で回答を求めた。(5) の質問には0から100%の割合を求め,(6) の質問には受講経験の有無を尋ねた。
結 果
 回答に欠損のなかった317名(男性144名,女性172名,不明1名)の回答を分析対象とした。5段階のリッカート法尺度に対する回答のうち,1と2は「不支持」に分類し,3は「どちらでもない」,4と5は「支持」に分類した。
 捜査方法について 目撃者に対する警察の聴取方法について,どのような聞き取り方が適切だと思うか尋ねた。その結果,警察が目撃者になんらかの情報を与えることは望ましくはないが,積極的に目撃者へ関与することが捜査においては有用であると判断されていた。
 目撃者の正確性・信頼性評価について 目撃者の正確性と証言の信頼性評価について尋ねた。その結果,警察官らの弁別能力は一般市民より優れていると判断され,この弁別能力は経験によって伸ばすことができると考えられていた。また参加者が第三者として目撃者の証言を聞いた場合,証言が正確か不正確か見分けられると思うかどうかを尋ねたところ,音声だけでは見分けられないとする一方で,情報量の多い映像の場合は正確性をより弁別できると判断された (t (317) = 10.59, p <. 01).また,目撃者の証言の正確性の指標として目撃者の自信の高さや,同一の目撃者の証言の繰り返しは正確性に指標にはならないと判断された。
 目撃者としての自分 参加者は目撃者となった場合を想定して質問に回答した。その結果,正しく写真帳から被疑者を識別できるかどうかに対する,参加者自身の識別の正確性に対する自己評価は低く,判断は警察官の影響を受けるだろうと判断された。
 専門家証人について 専門家証人の意見が裁判員,裁判官の判断の役に立つと思うかどうか尋ねたところ,専門家証人の需要の高さが示された。
 誤った目撃証言の割合ついて 誤った目撃証言がどの程度生じるのか,その割合についての予測を求めた。その結果,目撃証言には半数以上誤りが含まれており(53.51%),冤罪の原因の半数は目撃証言の誤りである(56.56%)と考えられていることがわかった。
考 察
 本調査の参加者には目撃者の正確性・信用性に対して懐疑的な傾向が見られ,警察による誘導の影響に対しても過小評価していなかった。つまり,識別判断に警察官は影響を与えることができると考えられていた。しかし,「どちらでもない」と回答する参加者が多かったことから,参加者には司法手続きや目撃証言に関する心理学的知識が不足していることが推測される。また,専門家証人が判決や量刑を判断する裁判員や裁判官にとって有用であると70%以上の参加者が回答していたこともこれを裏付けており,専門家証人の必要性が支持された。
引用文献
Deffenbacher, K. A. & Loftus, E. F. (1982). Do jurors share a common understanding concerning eyewitness behavior? Law and Human Behavior, 6, 15-30.

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