発表

2B-005

ファンは「神」を信仰しているか? ファン心理の構造とその心理学的基盤

[責任発表者] 伊藤 言:1
[連名発表者] 高野 陽太郎:1,2
1:東京大学, 2:明治大学サービス創新研究所

目的
 AKB48を代表としてアイドルグループおよびそのファンが社会を賑わしてきた。誰かのファンであるとは心理学的にいかなる事態だろうか?ファンにとって憧れの対象は「神」なのだろうか? アイドルグループ「仮面女子」において活躍するアイドル「桜雪」氏の協力を得た上で検討を行った。
 本研究の第1の目的は,現代日本のファンの心理構造を解明することであった。ファン心理はどのような因子から成り立つか?著名人に対する態度を心理学的に検討した先行研究 (Celebrity Attitude Scale; McCutcheon et al., 2002) および桜雪氏のアイドル活動から得た知見にもとづき質問項目を選定した上で,ファン心理に関連する因子の抽出を試みた。
 本研究の第2の目的は,ファン心理の心理学的基盤を解明することであった。先行研究においては宗教的な神(例:キリスト教)に対する信仰を持つ人ほど特定の著名人のファンになりにくいことが報告されている (Maltby, 2014, 2015)。しかし,具体的な宗教的信仰の有無ではなく,宗教的信仰の心理学的基盤(宗教的信仰と関連が深い心理学的変数)を測定した場合はどうだろうか?憧れの著名人を「神」と呼ぶファンが絶えないことが示すように,宗教的信仰の心理学的基盤を強固に持つ人ほどファン性が強いとの仮説を立て検討を行った。1.エージェンシーを探知しやすい,すなわちランダムな事象に誰かの意図や規則性を見出しやすい人ほど,宗教を信仰しやすく畏怖しやすいことが知られている (Valdesolo & Graham, 2014)。そこで,ランダムな事象に誰かの意図や規則性を探知しやすい人ほどファン性が強いと予測した。また,2.スピリチュアリティ傾向(自らを超越した体験,自分が自らを超えた存在と結びついていると感じる経験を行いやすい傾向)を強固に持つ人ほどファン性が強いと予測した。

方法
 研究対象:桜雪氏のSNSおよびスポーツ紙の記事を通じて研究を知りWebを通じて研究に参加した367名(男性307名,女性60名,Mage = 33, SDage = 10.7,うちアイドルファン75%)。
 ファン心理の構造の測定:Celebrity Attitude Scale (McCutcheon et al., 2002) を和訳した34項目と独自に追加した12項目の計42項目。詳細は「結果」を参照されたい。「全く当てはまらない」〜「とても当てはまる」の101段階。
エージェンシー探知 (agency detection)傾向:本当はランダムな12桁の数字 (e.g., "336337894771") について,コンピューターによってランダムに作成されたか人が意図的に作成したかどちらの場合もあり得ると教示した上で,「全く規則性がない/全く意図的でない」~「非常に規則性が高い/非常に意図的である」の10段階で評定を求めた。同様な課題を10回繰り返し評定の平均値を意図性・規則性の検知しやすさ(エージェンシー探知傾向)の指標とした(Valdesolo & Graham, 2014)。
 スピリチュアリティ傾向:「自分よりも何か大きなものに吸い込まれていくような経験をしたことがある」「時間も空間もなくなる経験をしたことがある」等16項目を101段階評定。

結果
 ファン心理の構造:ファン心理の構造について探索的因子分析(最尤法,独立クラスタ回転)を行い,MAP基準にもとづき6因子を抽出した。第1因子は「○○(好きな著名人)に恋人がいるとすればショックを受けるだろう」など著名人を恋愛対象とする傾向であり「恋愛性」と名付けた。第2因子は「○○に悪いことが起きた時自分のことのように感じる」など著名人に自らを同化させる傾向であり「同化性」と名付けた。第3因子は「○○とは言葉にできない絆がある」「自分が会いに行かないと○○は寂しがるだろう」など自分と著名人との関係を実際の「ファンと著名人」という関係以上のものであると考える傾向であり「妄想性」と名付けた。第4因子は「○○が好きな他の人と話すのが好きだ」など他のファンとの交流を好む傾向であり「社会性」と名付けた。第5因子は「全てにおいて○○は完璧だ」「○○の言うことはすべて正しい」など著名人を絶対視する傾向であり「信仰性」と名付けた。第6因子は「○○の生活を事細かに知りたい」「○○の過去について知るのは面白い」など著名人のプライベートな情報までにも執着する傾向であり「執着性」と名付けた(Table 1参照)。
 ファン心理の心理学的基盤:スピアマンの順位相関係数 (ρ)を算出したところ,執着性以外のファン性(恋愛性,同化性,妄想性,社会性,信仰性)は,エージェンシー探知傾向 (ρs > .10, ps < .048) およびスピリチュアリティ傾向 (ρs > .17, ps < .002) と有意な正の相関を示した。さらに,エージェンシー探知傾向とスピリチュアリティ傾向も有意な正の相関を示した (ρ = .17, p = .002)。これらの結果をTable 1に示した。

考察
 現代日本のファンの心理構造が6つの因子から成り立つことが明らかになった。また,ランダムな事象に誰かの意図や規則性を探知する傾向,および自分が自らを超えた存在と結びついていると感じる傾向を持つ人ほど,著名人のプライベートを事細かに知りたい傾向である執着性を除く5つのファン性を強く持つことが明らかとなった。具体的な宗教的信仰の有無ではなく,宗教的信仰と関連が深い心理学的基盤がファン性の心理学的基盤にもなっていることを示した点に本研究の意義が存在する。ファンは各々の「神」を信仰しているといえよう。本研究の限界としては男性中心およびアイドルファン中心のサンプルであった点,得られた効果量が小さい点が挙げられる。結果の一般化には慎重な議論が必要だろう。

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