発表

2A-097

緊急事態への対応と個人特性との関係−身近な緊急時対応経験に着目して−

[責任発表者] 松井 裕子:1
1:原子力安全システム研究所

目 的
 大規模なプラントでの事故や災害では全職員による緊急時対応が必要となるが、緊急事態への反応や対処の仕方には個人差があるとされる。そのため、組織がより効果的に緊急事態に対応できるようになるためには、緊急事態に適切に対処できる個人の特性を明らかにし、各職員が自分自身の特徴を知ること、さらに学習やトレーニングで向上できる要素は向上させ、向上の難しい要素はチーム内で補いあう必要がある。
 そこで本研究では、まず比較的身近な緊急事態経験の収集と緊急時対応に関連があると考えられる個人特性の測定とをあわせて行うことにより、緊急事態への反応や対処の成否に影響を及ぼす個人特性の手がかりを得ることを目的とする。

方 法
(1)調査対象者:三菱総合研究所の生活者市場予測システムmifにアンケートパネルとして登録している製造・工事関連の職業に携わる男性200名
(2)調査方法:Webアンケート調査
(3)調査項目:1)緊急事態への対処経験に関する17項目。遭遇した緊急事態に関する自由記述、対処できる自信の程度、事態発生から対処までの冷静さ、焦りの程度、被害程度の予測、対処の結果評価、類似経験の有無、事前の予測の有無など。なお回答者には、緊急事態を「生命・健康・財産などに危険が差し迫っている事態や思いがけない事態」と定義した。2)個人特性に関する項目。成人用メタ認知尺度(阿部・井田、2010)、曖昧さへの態度尺度(西村、2007)、Regressive−Reformative Self−Control Scale(杉若、1995)、特性的自己効力感尺度(成田他、1995)、認知的熟慮性−衝動性尺度(滝聞・坂元、1991)を参考に「メタ認知(モニタリング、コントロール)」「曖昧耐性(享受、不安、需要、統制、排除)」「セルフコントロール(改良型、調整型、外的要因)」「認知的熟慮性」「自己効力感(困難の回避、対人関係への態度、困難への挑戦)」の14要素について98問を設定した(すべて5段階評定)。3)年齢、体力の自信、運動習慣、性別、職業(5問)。

結 果
(1)緊急事態の記述内容
 157件の事例が記述された。そのうち、記述内容から、事態に主体的に対処していない、あるいは被害の程度や時間の制約が著しく低いと判断された事例を除く122件の事例を分析対象とした。多く記述された事例の内容は、交通事故(39件)、病気(14件)、犯罪(12件)、自然災害(12件)、傷害(9件)、作業事故(9件)であった。
(2)対処時の情動的反応と個人特性
事態発生から対処までの冷静さの回答に基づき、対処時の情動的反応を「終始混乱・呆然(n=29)」「途中から冷静(n=60)」「終始冷静(n=32)」の3群に分け、各個人特性尺度の平均評定値を比較した。その結果、メタ認知(いずれもp<.01)、曖昧耐性(享受、p<.05)、セルフコントロール(改良型(p<.05)、外的要因(p<.001))、自己効力感(すべてp<.01)において、3群の間に有意差が認められた。下位検定の結果、「終始冷静」は、自己効力感(対人関係)以外の尺度では「途中から冷静」との間に、セルフコントロール(外的要因)、自己効力感(困難の回避、困難への挑戦)では更に「終始混乱・呆然」との間にも有意差が認められた。
(3)対処の結果と個人特性
対処の結果が、「良い結果」「どちらかといえば良い結果」(n=90)と「どちらともいえない」「どちらかといえば悪い結果」(n=32)の2群間で、各個人特性尺度の平均評定値を比較した。「悪い結果」とした回答はなかった。t検定の結果、メタ認知(いずれもp<.01)、曖昧耐性(排除、p<.05)、自己効力感(困難への挑戦、p<.05)において有意差、セルフコントロール(調整型)において傾向差(p=.066)が認められた。

考 察
特に緊急事態への対処時に終始冷静であったと回答した群と途中から冷静になったと回答した群との間で差が認められたことから、本研究の回答者のうち、緊急事態に遭遇した際に強い情動的反応が生じにくかった人は、自分の活動をモニタリングしながら柔軟に計画を変更する(メタ認知)、曖昧さに積極的にかかわる(曖昧耐性(享受))、自分の行動を自発的な問題意識で良い方向へ変化させようとする(セルフコントロール(改良型・外的要因))、普段から、困難があっても回避したりあきらめたりせず、積極的に取り組めると感じている(自己効力感)ことが特徴であるといえる。このうちメタ認知と自己効力感(困難への挑戦)は、事態がよい結果となったと回答した群においても評定値が高く、緊急事態への遭遇から対処の過程全体において影響を及ぼす要因である可能性がある。一方、対処の結果についてのみ有意差が認められた曖昧耐性(排除)、セルフコントロール(調整型)は、実際に対処を行う段階において重要となる可能性がある。ただし、対処の成否については事態そのものの特性や周辺の環境などの影響を考慮する必要がある。さらに具体的な緊急事態の特性や実際の対処行動と個人特性の関係を明らかにし、それらの変容可能性や変容方法を検討していく必要があると考える。

詳細検索