発表

2A-086

小学生の道徳的判断における社会道徳的領域調整の発達

[責任発表者] 首藤 敏元:1
[連名発表者] 利根川 智子:2, [連名発表者] 樟本 千里#:3, [連名発表者] 上岡 紀美#:4
1:埼玉大学, 2:東北福祉大学, 3:岡山県立大学, 4:仙台白百合女子大学

目 的
 いじめ等の攻撃行動場面は多面的であり,その判断には道徳的思考と慣習的思考のような多元的な社会的認知が作用する(社会的領域理論)。Moral(道徳),conventional(慣習),さらにはprudential(自愛の思慮)という複数の領域の要素を持つ社会的行動の場合,人によって多元的な認知,つまり領域調整が異なれば,その行為の判断は異なり,対処行動も違うものになる。一方で,いじめ等の攻撃場面では,道徳的逸脱の要素に気づき,それを重視して判断することが求められる。本研究は,小学生が対人的な攻撃行動場面に対してとのように領域調整をするのか,そしてその多元的思考が善悪判断,非道徳的要素への被影響性,行動制止にどのように影響するのかについて調査する。
方 法
A 研究参加者 東京都内の公立小学校3校から,低学年191名,中学年177名,高学年169名,合計537名の児童が調査に協力した。男女はほぼ同数であった。
B 攻撃行動場面 他者への危険行為(高いところで他の子の背中を押す),関係性攻撃(遊びの仲間に入れない),心理的攻撃(仲間の悪口を言う)の3つの場面から質問紙は構成されていた。各場面は,「逸脱行為−親の注意−子どもの反抗」という線画入りの簡単な物語になっていた。「親の注意」は行為の判断をする際の非道徳的な要素として含められた。参加者は登場人物か自分と同じ学年の子どもであると仮定して回答した。
C 質問項目 物語ごとに以下の質問が行われた。
(1) 領域調整 判断をする際に「考えること」を領域別観点として6つ提示し,それぞれについて参加者にどの程度考慮に入れるかを3段階で評定してもらった。観点として,道徳1:人を精神的・身体的に傷つけていないか,道徳2:子どもの行為は人の道理に外れていないか,慣習1:生活のきまりを守っているか,慣習2:行儀正しくしているか,自愛1:子どもの行為が後に子ども自身の不利益になって戻ってこないかどうか,自愛2:今後の人間関係で悪い評判がおきないかどうかの6つが設定され,物語の内容に合わせて文章化されていた。(2) 悪さ判断 参加者は加害の行為を「悪い」「悪くない」の二者択一の判断を求められた。(3) 反抗重大視判断 参加者は,主人公が親に反抗したことは他の子への加害行為より悪いことか,あるいは加害行為の悪さをさらに悪くするのかの質問について,「そう思う」「そう思わない(行為自体が悪い)」の二者択一の判断をした。(4) 行為即中止判断 物語の最後に主人公は行為を中止しなければならないかについて,「今すぐ止めるべきだ」「今すぐ止めなくてもよい」の二者択一の判断をした。
D 手続き 調査は教師もしくは保護者の許可の下で,学校または家庭で実施された。600部配布し,回収は543部,有効回答数は537部であった(有効回収率は98.9%)。
結 果
A 領域調整変数
 18種類の領域別観点を因子分析(ブロマックス回転)にかけ,3つの因子を抽出した(累積寄与率43.53%)。因子1を「自愛思慮」,因子2を「人間生活」,因子3を「他者感情」と命名した。3(低・中・高学年)×2(性)のANOVAを因子得点ごとに実施したところ,自愛思慮(F(2,527)=4.11, p<.01)(中>低,高),人間社会(F(2,527)=6.33, p<.05)(低<中,高),他者感情(F(2,527)=5.20, p<.05)(低<中,高)となり,全てで学年の主効果が有意であった。
B 道徳的判断変数
(1) 悪さ判断 「悪い」の回答を1点とし,3つの物語で合計し悪さ判断得点を求めた。3(学年)×2(性)のANOVAの結果,全ての効果は有意に達しなかった。(2) 反抗重大視判断 「(行為と同程度かそれ以上に)反抗は悪い」という回答を1点とし,3つの物語で合計得点を求めた。3×2のANOVAの結果,学年の主効果(F(2,493)=18.58, p<.001)が有意であり,低(M=1.72)>中(M=1.20)>高(M=0.98)が認められた。(3) 行為即中止判断 「今すぐ止めるべき」の回答を1点とし合計得点についてANOVAを行った。全学年で「止めるべき」の回答が多く(M=2.6),すべての効果は有意に達しなかった。
C 道徳的判断に影響する領域調整に関する相関分析
 各道徳的判断変数を目的変数とし,領域調整変数を説明変数とする重回帰分析を学年ごとに実施した。その結果,行為の悪さ判断と行為即中止判断では,他者感情の観点が中(β=.27),高学年(β=.40)で正に影響していた。反抗重視判断では中学年で自愛思慮の観点(β=.26)が正に影響する一方,高学年では自愛思慮(β=.26)も正に影響すると同時に人間生活の観点(β=-.34)が負に影響していた。
考 察
 攻撃行動という比較的単純な道徳的逸脱行動場面であっても,児童は道徳,慣習,個人(自愛)の3つの領域の観点から状況を多面的に理解し,判断していることが分かった。悪さ判断と行為即中止判断は天井効果に近かったため,低学年の児童であっても「いじめ・乱暴→暴力→悪い→してはいけない」という理解から判断したと思われる。しかし,大人への反抗という非道徳領域の要素が加わると,上記の単純な判断の連鎖は抑制されることも示唆された。また,自愛の思慮は中学年児童の領域調整では相対的に強くなり,道徳的判断を抑制する可能性も示唆された。
引用文献
Killen, M., & Rutland, A. (2011). Children and Social Exclusion: Morality, Prejudice, and Group Identity. Oxford: Wiley-Blackwell.
首藤 敏元・二宮 克美 (2014). 子どもの道徳的発達の文脈としての母親の「個人の自律性」概念発達心理学研究, 25, 356-366.

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