発表

2A-083

乳幼児養育中の母親における「かわいさ」認知:刺激月齢による変化の検討

[責任発表者] 齋藤 慈子:1
[連名発表者] 池田 功毅:2, [連名発表者] 小林 洋美#:3, [連名発表者] 橋彌 和秀:3
1:武蔵野大学, 2:中京大学, 3:九州大学

目 的
 Lorenz (1943)は、乳幼児の身体的特徴、すなわち幼児図式(baby schema)は、ヒトを含む養育を必要とする動物種の成体に「かわいさ」を感じさせ、養育への動機や行動を引き出す効果があると指摘した。その後多くの研究がこの仮説を支持する報告を行っているが (e.g. Glocker et al., 2009)、ヒト乳幼児の顔のかわいさは、多大な世話が必要である低月齢時より、6-11か月齢の頃に最大になることが知られている (Hildebrandt & Fitzgerald 1979; 根ケ山, 1997; Sanefuji et al., 2007)。これらの研究では、根ケ山(1997)が0-2か月齢という枠の刺激を用いている以外、3か月齢以上の乳児の顔刺激しか用いていないという問題点がある。また、もしこれらの研究結果が示す傾向が正しいとすれば、もっとも世話の必要な新生児期からかわいさがピークとなる前の乳児は、養育者にどのように認知され、養育者からどのように世話を引き出しているのか、という疑問が生じる。この点についても、低月齢の子どもを持つ親を対象にした研究がなされていないため、かわいさのピークを迎える前の子を持つ親が、その時期の乳児をどのように評定するのかは不明である。そこで本研究では、新生児期の乳児刺激も用い、低月齢の子を持つ母親が、どのように乳幼児の顔を評定するのかを明らかにすることを目的とする。
方 法
対象者 九州大学人間環境学研究院 発達心理学研究室に、赤ちゃん研究員として登録をしている、0~2歳の子どもがいる母親を対象とした。事前に電話により調査概要を説明し、同意を得られた方にのみ依頼状を送付した。100名に依頼をし、回答者は98名であった。途中で回答を中断したり、入力に不備があったりしたものを除き、最終的に89名(平均年齢35.02歳、SD = 4.03)のデータを分析した。子どもの数の平均は1.69人(SD = 0.88)、末子の平均月齢は16.19か月(SD = 7.48)か月であった。参加者は以下に説明する刺激の月齢の枠に末子の月齢を対応させて群分けされた。各群の参加者数は表1の通りであった。
刺激 乳幼児8名(男児4名、女児4名)の、正面向き、無表情の顔写真を収集した。各児につき、新生児期(0か月)、1-3ヶ月、4-7ヶ月、8-11ヶ月、12-18ヶ月、19-24ヶ月の6枚、合計48枚を刺激として用いた。
手続き 参加者は、ウェブ調査(SurveyMonkey)により、匿名のまま回答を行った。冒頭で調査参加への同意を得た。各写真刺激は別々のページにランダムな順で提示された。各写真につき、参加者は「かわいいと思いますか」「ごはん(ミルク)をあげたいと思いますか」「抱きしめたいと思いますか」の3つの質問に5件法(1:まったくそう思わない~5:非常にそう思う)で回答した。これらの質問もページごとにランダムな順で提示された。48枚の写真に対する評定後、家族構成、子どもの性別と生年月日、回答者の性別と年齢を聞く質問が設けられていた。
結 果
 刺激の月齢枠を被験者内要因、末子の月齢による群を被験者間要因として分散分析を行った。その結果、3つの質問のいずれの評定値においても、刺激の月齢の効果は有意であったが、末子の月齢の効果および両者の交互作用は有意ではなかった。そのため刺激の月齢ごとの評定値を表2にまとめた。いずれの評定値でも刺激の月齢0、1-3、4-7か月の間に差はなかったが、「かわいい」については4-7か月の刺激がそれ以降の月齢刺激よりも高評定、19-24か月の刺激が他の月齢よりも低評定であり、また「ごはんをあげたい」「抱きしめたい」については、0-7か月の刺激が、8か月以降の刺激よりも高評定であった。
考 察
今回の調査では、0~7か月という低月齢児を持つ母親の参加者数が十分な数ではなかったこともあり、評定に与える参加者の末子月齢の効果はみられなかった。しかし、1~35か月児を持つ母親は、0、1-3、4-7月齢のかわいさの評定に明確な違いがみられず、これらの月齢の乳児を8か月以降の乳幼児より世話をしたい、抱きしめたいと評定した。この結果から、かわいさの認知については明確ではないが、乳幼児を持つ母親は、高月齢児よりも低月齢児に養育欲求を強く感じることが示された。
引用文献
Glocker, M. L., Langleben, D. D., Ruparel, K., Loughead, J. W., Gur, R. C. and Sachser, N. (2009). Ethology, 115, 257-263.
Hildebrandt, K. A. and Fitzgerald, H. E. (1979). Sex Roles, 5, 471-481.
Lorenz, K. (1943). Zeitschrift für Tierpsychologie, 5, 235-409.
根ケ山 光一 (1997). 早稲田大学人間科学研究, 10, 61-68.
Sanefuji、W., Ohgami, H., and Hashiya, K. (2007). Journal of Ethology, 25, 249-254.

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