発表

2A-080

中学生の時間的展望と抑うつとの関係

[責任発表者] 石井 僚:1
[連名発表者] 福住 紀明:3, [連名発表者] 石川 信一:2, [連名発表者] 村上 達也:3, [連名発表者] 村山 航#:4, [連名発表者] 大谷 和大:5, [連名発表者] 榊 美知子:4, [連名発表者] 鈴木 高志:3, [連名発表者] 田中 あゆみ:2
1:同志社大学研究開発推進機構, 2:同志社大学, 3:高知工科大学, 4:University of Reading, 5:北海道大学

目 的
 時間的展望は,個人間で異なる認知的な動機づけに関する構成概念であり,学業成績やリスク行動,物質乱用など,個人の様々な行動等を予測する (Mello et al., 2014)。日本の児童青年が持つ割合の高い抑うつ傾向 (Denda et al., 2006) との関連も示されている。例えば,大学生を対象とした調査においては,過去に対する否定的態度と抑うつとの間に正の相関 (Zimbardo et al., 1999),主に中年期を対象とした調査においても同様の傾向と,現在に対する運命論的な態度と抑うつとの間に正の相関がみられている (van Beek et al., 2010)。
これまで中心的に検討されてきた青年期後期や中年期のみでなく,児童期や青年期前期といった発達段階においても抑うつ傾向は高い (Denda et al., 2006)。また,児童青年期の抑うつは,その時点での不適応と関連するだけでなく,後のメンタルヘルスの問題につながることも示されている (Weissman et al., 1999)。そこで本研究では,中学生の持つ時間的展望と抑うつとの関連を検討する。
時間的展望には複数の側面がある (Mello et al., 2014)。Mello et al. (2014) が研究の必要性を主張する各時間を考える頻度は,Zimbardo et al. (1999) やvan Beek et al. (2010) で測定された各時間に対する態度より,介入可能性も高いと思われる。また各時間のつながりの認識は,行動と結果の随伴性の理解,ひいては精神的健康をもたらすとされ,注目されている (Stolarski et al., 2014)。そのため本研究では,各時間を考える頻度と,各時間の関連性から中学生の時間的展望を捉え,抑うつとの関係を検討する。
方 法
対象者と手続き
中学生 (男性195名,女性205名;Mage = 13.96) 400名を対象に,郵送法による質問紙調査を調査会社に委託して行った。
質問紙
時間的展望 邦訳版ATI-TFとATI-TR (Mello et al., 2007) を用いて,過去,現在,未来を考える頻度(「ほとんどない」から「ほとんどいつも」までの5件法3項目)および各時間の関連(1項目4件法)を測定した (Figure 1)。
抑うつ Birleson自己記入式抑うつ評価尺度短縮版 (並川他, 2011) を用いた(活動性および楽しみの減衰5項目,抑うつ気分4項目の計9項目3件法)。
結 果
各時間を考える頻度と抑うつの関係を検討するため,各時間を考える頻度を独立変数,抑うつを従属変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った。その結果,活動性および楽しみの減衰には,過去 (β = .23) と現在 (β = -.17) を考える頻度が有意だった (p < .01, R2 = .05)。抑うつ気分については,過去を考える頻度のみ (β = .23) 有意だった (p < .01, R2 = .05)。
 各時間の関連性と抑うつとの関係を検討するため,各時間の関連を独立変数,抑うつを従属変数とした1要因分散分析を行った (Table 1)。その結果,抑うつ気分において有意傾向がみられた (F (3, 396) = 2.40, p < .10, η2p = .02)。Tukey法による調整を行った多重比較の結果,(b) と (d) の間に有意差が見られ,(d) の平均値が高かった (p < .05)。
各時間の関連性と各時間を考える頻度の関係について検討するため,各時間の関連を独立変数,各時間を考える頻度を従属変数とした1要因分散分析を行った結果 (Table 1),過去を考える頻度において有意差が見られた (F (3, 396) = 6.45, p < .01, η2p = .05)。多重比較 (Tukey法) の結果,(a),(b) と (d) の間に有意差が見られ,(d) の平均値が高かった (p < .01)。
考 察
重回帰分析の結果,過去を考える頻度と抑うつの両下位尺度には正の関連が示された。青年期は,相対的に過去への指向性が低いとされる (白井, 1997)。そうした時期にある中学生が過去を頻繁に考える際,その過去は肯定的でなく,抑うつ的になったと考えられる。また現在を考える頻度と活動性および楽しみの減衰の間には負の関連がみられた。van Beek et al. (2010) では現在に対する運命論的な態度と抑うつの間に正の関連がみられていたが,単純に多く現在を考えることは,むしろ活動性や楽しみと関連することが示された。
分散分析の結果,各時間が関連していると捉えるより,過去を切り離し,現在と未来が関連していると捉える方が,抑うつ気分が低いことが示された。また,前者より後者の方が過去を考える頻度が高いことが示された。時間のつながりの認識は精神的健康をもたらす (Stolarski et al., 2014) と考えられていたが,中学生においては頻度と共に過去とのつながりはむしろ抑うつ気分をもたらすと考えられる。
引用文献
Denda, K., Kako, Y., Kitagawa, N., & Koyama, T. (2006). Assessment of depressive symptoms in Japanese school children and adolescents using the Birleson depression self-rating scale. International Journal of Psychiatry in Medicine, 36, 231-241
Mello, Z. R., & Worrell, F. C. (2007). The Adolescent Time Inventory-English. University of California: Berkeley.
Mello, Z. R., & Worrell, F. C. (2014). The past, the present, and the future: A conceptual model of time perspective in adolescence. In M. Stolarski, N. Fieulaine, W. van Beek (Eds.), Time Perspective Theory; Review, Research and Application. (pp. 115-129). Cham: Springer.
並川 努・谷 伊織・脇田 貴文 (2011). Birleson自己記入式抑うつ評価尺度 (DSRS-C) 短縮版の作成 精神医学, 53, 489-496.
白井 利明 (1997). 時間的展望の生涯発達心理学 東京:勁草書房.
Stolarski, M., Fieulaine, N., van Beek, W. (2014).Time Perspective Theory; Review, Research and Application. Cham: Springer.
van Beek, W., Berghuis, H., Kerkhof, A., & Beekman, A. (2010). Time perspective, personality and psychopathology: Zimbardo’s time perspective inventory in psychiatry. Time & Society, 20, 364-374.
Weissman, M. M., Wolk, S., Goldstein, R. B., Moreau, D., Adams, P., Greenwald, S., Klier, C. M., Ryan, N.D. Dahl, R.E., & Wickramaratne, P. (1999). Depressed adolescents grown up. Journal of the American Medical Association, 281, 1707–1713.
Zimbardo, P. G. & Boyd, J. N. (1999). Putting time in perspective: A valid, reliable individual-differences metric. Journal of Personality and Social Psychology, 77, 1271-1288.
(本研究はJSPS科研費 JP16H06406の助成を受けた。)

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