発表

2A-076

モノに感じる畏敬の念とその発達的変化

[責任発表者] 伴 碧:1
[連名発表者] 高橋 英之#:2
1:同志社大学, 2:大阪大学

目 的
近年,京都の駅や電柱などに,イラストやミニチュアなどの宗教的シンボルが設置されている。これは近隣住民が,迷惑行為を抑制するために“宗教的なシンボルを汚すような罰あたりな行動はしないであろう”という意図から設置を始めたものである(日本経済新聞,2014)。このように我々は,本物ではないシンボルにさえ“罰を受けるかもしれない”という畏敬の念を感じることがある。
 このようなシンボルから,我々が受ける影響を調べたものとして,Bateson, Nettele, & Roberts(2006)が挙げられる。彼女らは,“写真の目”というシンボルが部屋にあることで,参加者の社会規範の意識が影響を受けることを示した。また,写真のみならず,目のイラストが提示される場合にも,参加者は内集団に対して,高い協力行動を示すことも明らかとなっている(Mifune, Hashimoto, & Yamagishi, 2010)。さらに,ヒトの顔の写真や,赤ちゃんの写真の目を傷つける行為に対して我々はネガティブな感情を抱き,傷つけることを回避するようになることも示されている(e.g., King, Burton, Hicks, & Drigotas, 2007; Rozin, Millman, & Nemeroff, 1986)。このように,顔や目は,それが例え写真やイラストのようなシンボルであっても,我々の行動に影響を与える。では,近年街中で使用されている宗教的シンボルは,顔や目といった対象同様に,我々の行動に影響を与えるのであろうか。
 上述したように,顔や目といった対象は,シンボルであっても影響を及ぼすことが確認されている。しかし,例えば花の写真は,目の写真と比べて規範意識へ及ぼす影響が低いことが示されている(Bateson, Nettele, & Roberts, 2006)。そこで本研究では,宗教的シンボルも含めた様々な対象の写真およびイラストが,我々の行動に対して影響力を持ちうるのかについて現在検討を行っている。写真やイラストによるシンボルの影響力の測定する指標として,先行研究を参考にハサミで傷つけるかどうかを測った。仮に,写真やイラストであっても,その存在感から畏敬の念を抱いていれば,“罰があたるかもしれない”と感じるため,対象それ自体を傷つけないと考えた。
 
方 法
参加者 研究への参加の同意を示した大学生25名(男性7名,女性18名,平均年齢19.60歳,範囲:19歳−21歳))を対象とした。なお,“特定の宗教を信仰しているか”という問いに対して,2名が“仏教”と回答した。
手続き 参加者に対して,大学の講義終了後に募集を行い,実験への同意が得られた参加者のみ後日実験を実施した。実験では,同意書への回答を求めた後に,8つの対象の写真またはイラストを参加者に提示した。イラストか写真かによって与える影響が異なるかを調べるために,イラスト提示条件と写真提示条件を設けた。対象の提示順序はカウンターバランスを取った。8つの対象は,先行研究で用いられた赤ちゃんの他,目が付いたものとして,ダルマ,タコの3つを提示した。その他の対象には,宗教的シンボル,トマト,ポスト,ペン,Tシャツの5つを用いた。対象が描かれたカードの大きさは縦11cm×横12cmであり,中央に対象が配置された。また,対象の影響力の測定する指標として紙に描かれた様々な対象を切るという行動を用いた。参加者には“すべてのカードを,はさみで切ってください。どのように切ってもらっても結構です”という教示を行った。仮説として,シンボルが影響力を持つ場合,参加者は対象自体にハサミを入れない(傷つけない)と考えた。

結 果
 対象自体を切った人数について,条件ごとに2項検定を実施した。その結果,イラスト提示条件では,マーカー(p=.001),Tシャツ(p=.02),ポスト(p=.04)という対象について,それ自体にハサミを入れた人数が,入れない人数よりも有意に多いことが示された。また,写真提示条件においては,マーカー(p=.02),Tシャツ(p=.02),ポスト(p=.02),タコ(p=.02)という対象について,それ自体にハサミを入れた人数が,入れない人数よりも有意に多いことが示された。また,トマトや赤ちゃん,ダルマや宗教的シンボルについては,ハサミを入れる,入れないという判断に偏りがないことが示された。

考 察
本研究では,シンボル化された様々な対象が我々に与える影響について検討することを目的とした。まだ途中結果ではあるものの,赤ちゃん,ダルマ,タコといったように,同じく目を持つ対象であっても,その影響が異なる可能性が示唆された。対象が持つ影響力について,学会当日までにデータを増やし検討を進める。また,質問紙を用いて個々人の畏敬の念や道徳性について測ることにより,対象にハサミを入れるか,入れないかという判断に,どのような要因が影響しているのかについて明らかにする。加えて,ハサミを入れるという簡単な課題のため,幼児や高齢者にも実施することが可能である。今後は,生涯発達に応じて,宗教的シンボルに対する畏敬の念の変化やさまざまな対象から受ける影響力の発達的変化についても検討し,発表を行う予定である。

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