発表

2A-075

ノスタルジア状態の生理的特徴 音楽聴取によるノスタルジア状態喚起を用いて

[責任発表者] 小林 正法:1,2
[連名発表者] 真田 原行:1,2, [連名発表者] 片山 順一:2,1, [連名発表者] 大竹 恵子:2,1
1:関西学院大学, 2:関西学院大学応用心理科学研究センター

目 的
 懐かしい記憶を思い出すことは,ヒトの感情や認知に様々な影響を与える。近年の記憶と感情の相互作用に関する研究では,ノスタルジアが注目されている。ノスタルジアとは過去に対する哀愁・郷愁として定義されている(Sedikides et al., 2008)。このようなノスタルジアを感じている状態(ノスタルジア状態)を実験的に誘導した場合に,援助行動などの向社会行動の促進や人生満足感の向上が生じることが明らかになっている(Sedikides & Wildschut, 2016)。
 また,ノスタルジア状態の特徴の1つに混合感情(mixed affect)がある。ノスタルジア状態に伴って生じる感情は,bitter sweetと表現されるように,大部分はポジティブ感情であるが,ネガティブ感情も含むことが示されている(Barret et al., 2010)。




 このように,ノスタルジア状態が持つ機能やそれに伴う感情については研究が行われているものの,ノスタルジア状態に関する基礎的な知見,例えば,ノスタルジア状態の生理的特徴については未だ不明である。そこで,本研究は,ノスタルジア状態を喚起し,その際の生理指標(脳波,自律系指標)を測定し,ノスタルジア状態の生理的特徴を明らかにすることを目的とし,実験を行った。
方 法
 参加者・実験デザイン 18名の大学生・大学院生が実験に参加した。実験デザインは聴取する曲の種類(ノスタルジア状態喚起条件,統制条件)と曲の期間(前半・後半)の2×2の参加者内デザインとした。
 刺激 予備実験をもとに,ノスタルジア状態を喚起する条件の曲刺激として「キセキ」(GReeeeN),統制条件での曲刺激として「わたし以外わたしじゃないの」(ゲスの極み乙女。)を使用した。ともに各2分30秒に編集して用いた。
 質問紙 感情価と覚醒度を測定する各1項目,ノスタルジア状態を測定する3項目(Barret et al., 2010)からなる質問紙を用いた(すべて7件法)。
 手続き 音楽聴取中の参加者の脳波,心電図,皮膚コンダクタンス水準(SCL)を測定した。また,音楽聴取の前後に質問紙(3項目7件法; Barret et al., 2010)への回答を求めた。参加者は2曲の音楽聴取と質問紙への回答を行った。両条件の実施順(聴取する曲順)は参加者間で相殺した。
 分析方法・従属変数 脳波においては,前頭部位(F7, F8)のαパワー(8-13Hz)を算出し,F7とF8の差分をαパワーの左右差の従属変数とした。ポジティブ感情やネガティブ感情が喚起された際に右前頭部と左前頭部のαパワーの相対的な差が見られるためである(Davidson, 1992)。
 自律系指標では,心拍数,SCL,心拍変動の総パワー値に対する高周波帯域(0.15-0.40Hz)のパワーの比率(%HF)を従属変数とした。%HFは心臓迷走神経活動の指標とされる。
結 果
 まず,条件ごとにノスタルジア状態得点の変化量を算出し,条件間でその変化量を比較したところ,喚起条件の方が統制条件よりも有意に得点が高く(p <. 01),ノスタルジア状態を適切に喚起できていたことを確認した。
 ついで,各従属変数において,曲の種類と期間を要因とした参加者内2要因の分散分析を行った。分析の結果,αパワーの左右差,心拍数においては,すべての主効果及び交互作用は有意ではなかった(ps > .05)。SCLにおいては,期間の主効果が有意で(p < .05),前半よりも後半のSCLが低くなっていたものの,曲の種類の主効果及び交互作用は有意ではなかった(ps > .05)。その一方で,%HF(Fig.1・右)では,曲の主効果,期間の主効果がそれぞれ有意であり(ps < .05),前半よりも後半の方が%HFは増加し,ノスタルジア状態喚起条件の方が統制条件よりも%HFは低かった。
考 察
本研究は,ノスタルジア状態の生理的特徴を明らかにするため,音楽によってノスタルジア状態を喚起した条件と統制条件の間で生理指標を比較した。実験の結果,%HFにおいてのみ,両条件間で差が見られ,特にノスタルジア状態喚起条件において,%HFが低下していた。これは,心臓迷走神経活動の抑制がノスタルジア状態の生理的特徴であることを示している。また,持続的注意が生じた際には,心臓迷走神経活動が低下するとされている(Luque-Casado et al., 2016)。加えて,ノスタルジア状態では自伝的記憶の想起が生じやすい(Barret et al., 2010)。したがって,本研究においてもノスタルジア状態の喚起に伴う自伝的記憶が想起され,その記憶に注意が向けられていた可能性が示唆される。
今後は,自伝的記憶の想起による影響を明らかにするためにも,自伝的想起によるノスタルジア状態の喚起においても同様の結果が得られるかを検討する必要がある。

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