発表

2A-073

VR表情フィードバック装置が情動・自伝的記憶に及ぼす影響-ネガティブ気分制御期待感に着目して-

[責任発表者] 浜村 俊傑:1,2
[連名発表者] 中村 杏奈:1, [連名発表者] 吉田 成朗:1, [連名発表者] Jack Mearns:3, [連名発表者] 下山 晴彦:1
1:東京大学, 2:日本学術振興会, 3:カリフォルニア州立大学フラートン校

目 的
表情は一般的に感情の表出として捉えられるが,表情フィードバック仮説では表情の変化に伴って感情が変化することが指摘されている(Strack et al., 1988)。吉田ら(2015)は擬似的な表情変化を視覚的にフィードバックする装置(VR表情FB装置)を開発し,実際の表情変化を伴わずとも,擬似的な表情変化のFBによって感情が喚起されることを示した。一方で,事前の気分によってVR表情FB装置が与える効果が異なる可能性についてはこれまで検討されていない。そこで本研究では,悲しい気分を誘発した参加者に対してVR表情FB装置が与える影響を検討した。悲しい気分における感情の変化には,自分でネガティブ気分を緩和することへの期待感(Negative Mood Regulation Expectancies; NMRE; Catanzaro & Mearns, 1990)が影響することが想定されるため,NMREを独立変数の一つとして採用した。感情変化の測定としては,吉田ら(2015)が使用したPANASと同時に,気分一致効果(気分の変化に伴って想起される記憶の内容が変化する; Bower, 1981)に基づいて自伝的記憶のポジティブ度を使用した。
方 法
20代〜30代の男女62名(女性30名)の協力を得た。独立変数を(1)VR表情FB装置の操作条件(3水準: 笑顔/操作なし/悲しい顔)および(2)NMRE(2水準: 高群/低群)とし,2要因6水準の被験者間実験を行った。従属変数はポジティブ情動・ネガティブ情動・自伝的記憶のポジティブ度の3つとした。実験参加の同意を得た後,実験室のPCモニタにて実験を行った。実験協力者は,(1)NMREの測定としてNMR-J(Mearns et al., 2016)に回答し,(2)ネガティブ気分誘発のため,映画「蛍の墓」より母親を亡くすシーンを約6分間視聴した。次に,(3)VR表情FB装置を用いた視覚探索課題を行った。PCモニタの中心に参加者の顔が表示され,その周りに順に現れる的をクリックするよう求めた。参加者は笑顔/操作なし/悲しい顔の3群に割り当てられ,PCモニタ内の顔は操作された状態で表示された。その後,(4)日本語版PANASを用いてポジティブ情動・ネガティブ情動を測定し,(5)自伝的記憶の測定するため,高校生の頃の出来事を5つ記述し,それらのポジティブ度を7件法で評定した。
結 果
年齢とNMREに正の相関(r = .31, p < .01)が見られたことから,年齢を共変数とした一般線形モデルを用いた。VR表情FB課題は,ポジティブ情動(F (2, 54) = 0.63, n.s.),ネガティブ情動(F (2, 54) = 0.65, n.s.),自伝的記憶(F (2, 54) = 0.16, n.s.)のいずれにも有意な主効果を持たず,悲しい気分においてはVR表情FB課題の気分喚起が効果を持たないことが示された。一方で,NMREはポジティブ情動(F (1, 54) = 4.60, p < .05.)と自伝的記憶(F (1, 54) = 9.90, p > .05)に有意な主効果を持っていたことから,NMREの高い人はネガティブ気分の時にもポジティブ情動を高めることができることが示された。NMREがネガティブ情動に与える影響は有意ではなかった(F (1, 54) = 0.65, n.s.)。VR表情FB課題とNMREの交互作用は,どの従属変数においても有意ではなかった。
考 察
ネガティブ気分誘発時において,VR表情FB装置がポジティブ情動・ネガティブ情動・記憶想起に与える効果は検出されなかったが,NMREはポジティブ情動と自伝的記憶の想起を有意に説明した。本研究から,特定の気分を誘発した際に疑似的表情フィードバックが感情に及ぼす影響が異なることが示され,気分誘発の条件を変えて研究を追試することを今後の課題とした。また,気分一致効果における期待感の重要性は,先行研究と一貫していることを示した。本研究でVR表情FB装置の感情喚起の効果が得られなかった理由として,気分誘発課題の刺激が強すぎた,FBの課題を行う際に、参加者が自身の表情をきちんと認識していない,が挙げられた。
引用文献
Bower, G. H. (1981). Mood and memory. American psychologist, 36, 129-148.
Catanzaro, S. J., & Mearns, J. (1990). Measuring generalized expectancies for negative mood regulation: Initial scale development and implications. Journal of personality assessment, 54, 546-563.
Mearns, J., Self, E., Kono, K., Sato, T., Takashima, E., Tresno, F., Watabe, Y., & Catanzaro, S. J. (2016). Measuring generalized expectancies for negative mood regulation in Japan: The Japanese language NMR Scale. International Journal of Quantitative Research in Education, 3, 109-127.
Strack, F., Martin, L. L., & Stepper, S. (1988). Inhibiting and facilitating conditions of the human smile: a nonobtrusive test of the facial feedback hypothesis. Journal of personality and social psychology, 54, 768.
吉田成朗, 鳴海拓志, 櫻井翔, 谷川智洋, & 廣瀬通孝. (2015). リアルタイムな表情変形フィードバックによる感情体験の操作. ヒューマンインタフェース学会論文誌, 17:1, 15-25

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