発表

2A-053

香りと共感性が道徳的判断に及ぼす影響

[責任発表者] 深井 奈那:1
[連名発表者] 杉尾 武志:1
1:同志社大学

目 的
 近年、判断対象以外の要因によって喚起される嫌悪感や清潔感といった感情状態が、行為の善悪に関する判断(道徳的判断)に影響することが明らかにされつつある[1, 2]。現在、アンモニア臭などの嗅覚刺激によって嫌悪感が操作されることが示されているが[1]、嗅覚刺激の印象を形成する要素の違いがどのような感情状態を喚起させ、道徳的判断にどのような形で影響するのかは未だ検討がなされていない。本研究は、より複雑な嗅覚刺激である香水を用いることで、道徳的判断に影響する嗅覚刺激の質的な特性を明らかにすることを目的とした。さらに、先行研究において、功利主義的な道徳的判断の際に、共感性が下がった結果がみられたように、道徳的判断と共感性との関係についても検討を行った。
方 法
参加者 大学生および大学院生20名(内女性14名、平均年齢22.6歳)。
実験デザイン 香り(4水準)と色の調和性(2水準)を独立変数とした参加者内2要因デザインであった。
刺激と課題 嗅覚刺激として用いた香水は、10種類の香水に対する印象評価を通して選定した。因子分析の結果からかわいさ因子と上品さ因子の2因子が得られた。本実験では、かわいさ因子と上品さ因子のどちらか一方がそれぞれ高いもの、2因子共高いもの、2因子共低いものの4種類の香水を用いた。実験時は、視覚情報を排除した容器の中に香水を含ませたコットンを入れて提示した。視覚刺激に関しても、嗅覚刺激として使用した香水と調和する色および調和しない色を予備実験を通して2色ずつ選定した。視覚刺激の提示はカラーパッチによってPC画面上(EIZO製液晶モニター23.5型FG2421)で行った。道徳的判断課題は400文字程度の文章を32題作成した。本研究において、より功利主義的な立場に立つ場合、道徳的判断課題の評定値が高くなるとする。
手続き 実験参加者はPC画面に表示された指定の容器に入った香りを、画面に提示されたカラーパッチを見ながら嗅ぎ、香りと色が認識できた時点で容器の蓋を閉め、香りと色に関して、感性的、知覚的および両者の調和性について評価を行った。その後、道徳的判断課題の文章全体を一読し、課題中の下線部における行為の善悪、意図性、許容について判断を行った。以上を1試行とし、16試行行った(図1)。16試行終了後、多次元共感性尺度に回答した[4]。課題の回答に関して時間による制約は設けなかった。
結 果
 実験により取得したデータについて、線形混合モデルを用いた分析を行った。なお分析には、RのlmerTestパッケージにおけるlmer関数を用いた(Kuzunetsova,2016)。固定因子は香りと色、ランダム因子は参加者とした。香りと色に対する評定値および両者の調和性について中心化を行い、共変量とした。さらに、参加者ごとに算出された多次元共感性尺度について中心化を行い、共変量の固定因子としてモデルに加えた。最終的にAICを基準に最適なモデルを決定した。
最終モデルにおいて共変量を含めた固定因子についてanova関数を用いて分散分析を行った。善悪の評定では、香り(F(3,18)= 10.28, p<.01)、多次元尺度における共感的配慮(F(1,18)= 4.66, p<.05)、および個人的苦悩(F(1,18)= 6.29, p<.05)、色に関する評価(F(1,18)= 4.90, p<.05)、調和性に関して主効果がみられ(F(1,18)= 6.38, p<.05)、香りと色の間に交互作用がみられた(F(3,32)= 4.30, p<.01)。香りでは、かわいさ因子の条件に該当する香水を嗅いだときに、より評定値が低くなることがわかった。また、香りと色の調和性が高い場合、低い場合よりも、評定値が低くなった。さらに、共感的配慮と個人的苦悩が高い人は、より評定値が低くなった。
許容の評定では、共感的配慮の効果がみられなかったこと以外は、善悪の評定と同様であった。また、意図性の評定に関しては共感性の下位尺度のみ効果がみられなかった。
考 察
香りの中に明るさや甘さといった女性性を感じたとき、道徳的判断の功利主義性が減少すると考えられる。さらに、香りと色の調和性がある場合、香りと色の一致性が高いと考えられ、異なる刺激の一致性が高まった場合に、心的な心地よさを生じさせ、より道徳的判断の傾向が変化したと考えられる。また、個人特性に関して、感情的共感が高い傾向にある人間は、より相手に感情移入をしやすいため、功利主義的な判断を起こしにくくすると考えられる。このことは先行研究でみられた功利主義的な道徳的判断において共感性の中でも、他者の感じていることを感覚としてとらえる感情的共感が減少するという結果と一致している[3]。また、交互作用がみられなかったことから、香りと共感性は独立して作用していると考えられる。このことは、道徳的判断を行う際に、嗅覚刺激によって喚起された情動によって操作される経路と、人間が個人特性として持っている共感性の違いによって操作される経路といった異なる経路の存在を示唆している。
引用文献
[1] Schnall,S. et al. (2008). Psychological Science, 19(12), 1219-1222. [2] Schnall,S. et al. (2008). PSPB, 34(8), 1096-1109. [3] Gleichgerrcht,E. et al. (2013). Frontiers in Psychology, 5(501). [4] 桜井茂男 1988奈良教育大学紀要37(1) 149-154.

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