発表

2A-036

個体間における生体情報のカオス的同期について—操体法を用いた基礎的研究—

[責任発表者] 瀧川 諒子:1,2
[連名発表者] 石井 康智:3, [連名発表者] 福川 康之:3, [連名発表者] 鈴木 平:1
1:桜美林大学, 2:日本学術振興会, 3:早稲田大学

目 的
生体の変動はカオス的である。従来採用されてきたFFTに代表される周波数解析などの線形解析では,信号の中の周波数という一成分に注目し,特定の周波数帯域を持たない信号は排除するため,ダイナミックな変動に対する情報を得ることが難しかった。カオス解析はゆらぎ成分として重視されてこなかった研究対象に内在するカオス性を評価し,対象の状態把握を試みるものでもある。特に,指尖脈波のカオス性の指標であるLLEは心身の免疫力の指標とされ,臨床医学的研究や人間工学的研究において,心身に係る疾患を持った患者の病態把握や,作業者の心身状態の推定に用いられている(e.g., Oyama-Higa et al.,2013)。
しかしながら,カオス解析を用いた研究において,個体間の生体信号の関係に係る基礎的な知見がまだ充分でない。そこで本研究では,個体間の生体信号の同期について,面接場面における信号のカオス性を用いて比較・検討する。加えて本研究では,動作療法である操体法の効果と信号の同期現象がどのように関係するか検討することで,個体間の信号の同期現象の利用可能性を探る。つまり,操体法介入前のインテーク面接場面における実験者・被験者間の生体信号の同期現象を検討し,操体法介入の効果との関連を検討することを目的とする。

研究1: 指尖脈波の同期
方法
対象: 大学生・大学院生45名(平均年齢21.1歳,SD=1.68歳,男性25名,女性20名)を対象とした。
生理指標・測定装置: 指尖脈波(MLT1010 Pulse Transducer(ADINSTRUMENTS製)/Lyspect3.5(カオテック研究所製))
手続き: 安静→面接・生理データ測定。実験者は参加者の運動習慣,既往などについてインタビューを行った。
分析: 指尖脈波のLLEについて相互相関関数を用いて波形の相関関係を検討した。
結果
個体間の脈波のLLEの間には,中程度の相互相関関係が見られた(相互相関関数の最大値=.61±.14, Figre1)。

研究2: 生体信号の同期と操体法の関連
方法
対象及び生理指標・測定装置: 研究1と同様であった。
動作バランス評価課題: 操法より首回し課題,両膝倒し課題を用いた。
介入課題: 直立二足姿勢における双脚体重の左右バランス調整を用いた。
動作バランス改善指標: 動作バランス評価課題において,明らかに左側への運動が容易である(-5)から左右差なし(0),そして明らかに右側への運動が容易である(5)とする10段階のナンバースケールを用いた。評価の絶対値をとり,介入前から介入後の値を差分することで左右差なし(0)からの距離の変化量を導き,動作バランスの改善指標とした。
実験手続き: 面接・生理データ測定→Pre動作バランス評価→介入課題→Post動作バランス評価
分析方法: 指尖脈波のLLEについて相互相関関数を用いて波形の相関関係を検討した。また,介入課題の前後で動作バランス改善指標を算出し,個人内において,実験者との指尖脈波のLLEの同期程度を併せて検討した。
結果
個体間の脈波のLLEの相互相関関数と動作バランス改善指標の間には,中程度の相関関係が見られた(ピアソン係数=.49)。

考 察
本研究の結果は,個体間のカオス性の同期が,二者の関係性を反映することを支持する結果であると言えるだろう。
生体を維持する協調構造(生体信号間の同期現象)にカオス的なリズムが伴う可能性は示唆されているが,信号間の同期現象が個体間にもカオス的なリズムを以て観察されることを鑑みれば,二者間のカオス・ダイナミクスの検討は,新しい観点からヒトのコミュニケーションを観察する手段になり得る。とくに,心理臨床場面において,セラピストとクライアントの相性や,関係構築の進展状況など,これまで主観的な判断に頼るほかなかった二者の関係性の評価に新しい方法論を提供する可能性がある。本研究では,動作療法である操体法を用いたが,これは中枢神経系や末梢神経系での疼痛制御の可塑的変化や心理的要因などが病態形成に関与するため治療が難渋する慢性疼痛患者において,東洋医学的見地から新たな治療可能性として提案されているものである。全体論的方略に基づく東洋医学は,従来の還元的手法では解明できない部分が多く残され,その普及が阻まれている。これを鑑みれば,新しい解析観点に立つことはその効果機序の説明に少なからず寄与する可能性がある。

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