発表

2A-027

建設的な自己注目,自己洞察,抑うつ症状の関連

[責任発表者] 中島 実穂:1,2
[連名発表者] 丹野 義彦:1
1:東京大学, 2:日本学術振興会

目 的
 自己洞察とは,自身の思考,行動,感情に関する認識の明確性を指す (Grant et al., 2002)。自己洞察は心理的適応の要となると考えられており,自己洞察を高めることは,古くから抑うつ治療における主目的の1つとなっている (Stein & Grant, 2014)。自己洞察は,一般的に建設的な自己注目により獲得できると考えられている (Simek, 2013)。
 このように,建設的な自己注目により自己洞察が向上し,抑うつ症状が低減できるというメカニズムは,様々な臨床理論において一般的に想定されているものである (Beck et al., 2004)。しかしながら,このメカニズムに関する実証的な検討は横断的なものに留まっており,あまり十分に行われていない (Simsek., 2013)。そこで本研究では,インターネットを介した1ヶ月間隔の2時点縦断調査を実施し,建設的な自己注目が自己洞察を高め,自己洞察が抑うつ症状を低減するという仮説メカニズムの妥当性を検証する。
方 法
参加者 23歳から64歳の男女 230名 (男性61名, 女性169名, 平均年齢37.45歳, SD = 8.47)
尺度 (1) Self-reflection & insight scale 日本語版 (Nakajima et al., 2017) 自己洞察と建設的な自己注目の測定に用いた。自己洞察の8項目と,建設的自己注目の12項目の計20項目から構成される。回答形式は6件法であった。(2) うつ病自己評価尺度 (CES-D;島ら, 1985) 抑うつ症状の測定に用いた。20項目から構成され,回答形式は4件法であった。
結 果
 建設的な自己注目,自己洞察,抑うつ症状の因果関係を,交差遅延効果モデルを用いて検証した。交差遅延効果モデルとは,追跡調査間の変数の変化量に対し、それぞれの変数が高いに影響を及ぼすか否かを推定するモデルである (Finkel, 1995)。このモデルを共分散構造分析によって分析した結果をFigure 1に示す。このモデルでは,事前に行った相関分析において,有意な相関がみられた自己洞察と抑うつの共分散も仮定している。モデルの適合度は十分に高かった
(χ2 = 5.44, p = .25, df = 4, GFI = .992, AGFI = .959, CFI = .998, RMSEA = .040)。まず適応的な自己注目から自己洞察への標準偏回帰係数は,正の値で有意であった。一方,自己洞察から抑うつ症状への標準偏回帰係数は,有意ではなかった。よって仮説は部分的に支持された。
考 察
 縦断調査の結果,仮説通り,建設的な自己注目が自己洞察を向上することが支持された。その一方で,自己洞察により抑うつ症状が低減するということは支持されなかった。先行研究において,自己洞察を向上させる訓練により,抑うつ症状が改善されることが報告されていることを考慮すると (e.g. Grant et al., 2003),自己洞察が有効に作用するには何らかの条件が必要であることを,この結果は示している可能性がある。一方,仮説メカニズムとは反対に,抑うつ症状が後の自己洞察を阻害することが,結果から示された (Figure 1)。何らかの要因により抑うつ症状が高まると,思考や感情が過度にネガティブになるなど,普段とは異なる自己間隔を経験しやすい(Hamilton & Abramson, 1983)。このような特殊な経験は,自己洞察の混乱を招く要因となり得ると考えられ,抑うつ症状により自己洞察に影響が及ぼされるという関係性も理論的に了解可能であろう。よって今後の検討では,自己洞察と抑うつは相互に関連していると想定すべきであるということを,本研究の結果は示唆した。
引用文献
Beck, A. T., Baruch, E., Balter, J. M., Steer, R. A., & Warman, D. M. (2004). A new instrument for measuring insight: the Beck Cognitive Insight Scale. Schizophrenia research, 68, 319-329.
Grant, A. M., Franklin, J., & Langford, P. (2002). The self-reflection and insight scale: A new measure of private self-consciousness. Social Behavior and Personality: an international journal, 30, 821-835.
Grant, A. M. (2003). The impact of life coaching on goal attainment, metacognition and mental health. Social Behavior and Personality: an international journal, 31, 253-263.
Finkel, S. E. (1995). Causal analysis with panel data. Sage.
Nakajima, M., Takano, K., & Tanno, Y. (2017). Adaptive functions of self-focused attention: Insight and depressive and anxiety symptoms. Psychiatry Research, 249, 275-280.
島 悟・鹿野 達男・北村 俊則・浅井 昌弘(1985). 新しい抑うつ性自己評価尺度について. 精神医学, 27, 717-723.
Simsek, O. F. (2013). Self-absorption paradox is not a paradox: illuminating the dark side of self-reflection. International Journal of Psychology, 48, 1109-1121.
Stein, D., & Grant, A. M. (2014). Disentangling the relationships among self-reflection, insight, and subjective well-being: The role of dysfunctional attitudes and core self-evaluations. The Journal of psychology, 148, 505-522.

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