発表

2A-025

ひきこもり状態にある人の適応的行動アセスメント 親評定尺度の作成と心理測定学的特徴の検討

[責任発表者] 野中 俊介:1,2
[連名発表者] 嶋田 洋徳:1, [連名発表者] 境 泉洋:3
1:早稲田大学, 2:日本学術振興会, 3:徳島大学

目 的
 ひきこもり状態は,問題行動(境他,2004),精神疾患(Kondo et al., 2013),QOL低下(野中・境,2014)などを伴うことが報告されており,ひきこもり状態にある人(以下,ひきこもり者)に対する抜本的支援が必要とされている。
ひきこもりを主訴とするケースの多く(72.2%)は,家族などの来談であるため(地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究班,2003),家族を対象として支援せざるを得ないことが多い。加えて,家族支援の多くは,家族の主訴に応じて,家族を介してひきこもり状態の改善,すなわち多くの場合において社会的交流行動の増加を目指さざるを得ないことが多い現状にある(野中・嶋田,2017)。
従来,家族支援においては,ひきこもり者の社会的交流行動の特徴に応じたターゲット行動が設定され,ターゲット行動を増加させる手続きが用いられている(境他,2015)。その一方で,ひきこもり者の社会的交流行動は,家族から間接的に聴取するしかなく,そのアセスメントは憶測に憶測を重ねた情報に偏ってしまいやすいため,ある程度客観的にアセスメントできる手法が必要であると考えられる。しかしながら,これまで,家族評定によってひきこもり者の社会的交流行動を体系的に測定する尺度は確立されていない。そこで本研究では,ひきこもり者の適応的行動を測定する親評定尺度を作成し,心理測定学的特徴を検討することを目的とした。

方 法
研究参加者 ひきこもり者の家族216名(母親148名,父親68名:ひきこもり群),過去ひきこもり経験者の家族77名(母親56名,父親21名:過去ひきこもり群),ひきこもり経験のない人の家族468名(母親105名,父親363名:非経験群)を分析対象とした。回答対象の子どもは,ひきこもり群が男性176名,女性40名,過去ひきこもり群が男性55名,女性22名,非経験群が男性372名,女性96名であった。
測度 (a)デモグラフィック 子どものひきこもり状態の有無,子どもと研究参加者の性別および年齢,ひきこもり期間を尋ねた。(b)適応的行動 先行研究(境・野中,2013など)から48項目を抽出し,専門職による項目の修正の結果,38項目の暫定版適応的行動尺度(Adaptive Behavior Scale for Hikikomori:暫定版ABS-H)が作成され,4件法で尋ねた。
手続き ひきこもり家族会の定例会,および,インターネットリサーチ会社の登録モニターにおいて実施された。子どもの年齢および性別をマッチングした。
統計解析 項目分析においては,項目反応理論を用いて識別力の基準値(0.80: Baker, 2001)に満たない項目を除外した。また,ミンレス法オブリミン回転による探索的因子分析によって因子構造を検討し,確認的因子分析を用いて双因子によるモデルの適合度を検討した。加えて,群間差の検討によって基準関連妥当性を検討した。
結 果
項目分析 識別力の基準値に満たない12項目を除外した。
探索的因子分析 MAP,累積寄与率(79.83%)から,4因子構造を採用し,項目の特徴から,各因子を「他者交流」,「家族」,「価値」,「社会参加」とした。
確認的因子分析 4因子26項目を用いたモデルの適合度は,CFI = .998, GFI = .998, AGFI = .997, RMSEA = .058, SRMR = .040であり,十分な値であると解釈された。
項目の特徴 テスト情報曲線から,潜在特性値−1から0において情報量が多い(29.84%)ことが示された(Figure 1)。また,「他者交流」において高い識別力(2.00以上)の項目が含まれ,「家族」において低い潜在特性値において情報量が多い項目が含まれることが示された。
信頼性と妥当性の検討 ABS-HのCronbachのα係数は .97であり,十分な内的整合性が示された。次に,基準関連妥当性を検討した結果,各因子得点において,ひきこもり群は非経験群よりも有意に得点が高いことが示された。

考 察
本研究の結果,ひきこもり者の適応的行動を親評定によって測定する4因子26項目から構成される尺度が作成された。テスト情報曲線から,社会的交流行動のやや低い人の識別に優れていることが確認された。また,識別力パラメータから,適応的行動の主な要素は他者との交流に関するものであり,家族に関する適応的行動は,適応的行動が低い者でも有しやすいものであることが示唆された。

引用文献
境 泉洋・野中 俊介(2013).CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック——若者がやる気になるために家族ができること 金剛出版

詳細検索