発表

2A-021

「新型うつ」の社会的認知—会社員を対象としたアンケート調査の分析—

[責任発表者] 樫原 潤:1,2
[連名発表者] 亀山 晶子:1, [連名発表者] 山川 樹:1, [連名発表者] 村中 昌紀:1, [連名発表者] 坂本 真士:1
1:日本大学, 2:日本学術振興会

目的
 近年の日本では,従来型のうつ病とは異なる特徴 (例えば,対人過敏傾向,自己優先志向) をもつ抑うつ症候群である「新型うつ」の存在が指摘されており,特に一般企業において問題視されるに至っている (坂本・村中・山川, 2014)。新型うつの当事者が抱える生活上の困難を考慮すれば,一般会社員を対象に知識啓発を行うなど,新型うつ事例への理解やサポートを促す取り組みが今後重要となると考えられる。
本研究は,一般大学生を対象としたSakamoto, Yamakawa, & Muranaka (2016) の知見を発展させ,一般会社員の間で新型うつに対してどのようなイメージ (社会的認知) が形成されているのかを検討した。従来型うつ病と新型うつの事例を描いた文章 (ビネット) を提示して印象評定を求めることにより,一般会社員における新型うつイメージの現状を把握し,今後の知識啓発に向けた課題を探索的に示すこととした。
方法
調査概要 株式会社クロス・マーケティングが保有するアンケートモニターに登録する会社員のうち,「25–29歳であり,かつ役職がない (非管理職)」「40–49歳であり,かつ課長クラス以上である (管理職)」という各条件に合致する者を対象に回答募集を行った。有効回答を行った非管理職208名 (男性85名,女性123名; 平均27.16歳) と管理職245名 (男性118名,女性127名; 平均45.47歳) のデータを分析対象とした。
ビネット Sakamoto et al. (2016) において用いられた,従来型うつ病と新型うつのビネットの文言に微修正を施し,回答者ごとにランダムな順序で提示した。なお,Sakamoto et al. (2016) のビネットは,精神科医の監修を受け,従来型うつ病と新型うつの特徴を網羅するように作成されたものであった。回答者に対しては,ビネット間で医学的な重症度や機能障害の程度には差がないこと,ビネット内の登場人物は回答者と同性の人物とすること,という2点を教示した。
質問項目 Sakamoto et al. (2016) が用いた質問項目群 (Table 1) を回答者に提示し,各ビネットの人物に対する印象評定をそれぞれ5件法 (1: そう思わない— 3: どちらともいえない— 5: 非常にそう思う) で尋ねた。なお,「拒絶的な感情をもつ」「援助したい」「共感できる」の諸変数に関するα係数は,「役職×ビネットの種類」のいずれのパターンにおいても良好な値を示していた (αs > .61)。
結果
 各ビネットの登場人物に対する印象評定の平均値を役職ごとにまとめ,分散分析による平均値比較を実施した (Table 1)。
まず,分析に用いたすべての変数に関して,ビネットの種類による有意な主効果が確認された (Fs > 11.15, ps < .001, η2s > .02)。具体的には,新型うつの場合は,従来型うつ病の場合と比べ,1) 「うつ病の診断はつかない」「投薬治療や心理療法は効果的でない」という病態理解がなされやすく,2) 「拒絶的感情」の保持や,安易な「がんばれという励まし」など,うつ病の者に対しては不適切であるとされる関わりをもつ意図が強まり,3) 道具的・情緒的な「援助行動」を実施する意図が弱まり,4) 「共感性」が抱かれづらくなる,という4点が示された。
上記の結果に加え,役職の主効果や,役職とビネットの種類による交互作用効果も部分的に確認された。具体的には,1) 非管理職の間では,従来型うつ病や新型うつに関して「投薬治療が有効だ」という認識が抱かれづらい (F(1, 451) = 11.22, p < .001, η2 = .02),2) 管理職の間では,うつ病や新型うつの人物に関して「共感性」が抱かれづらい (F(1, 451) = 11.32, p < .001, η_p^2 = .02),3) 2) のような管理職の傾向は,新型うつ事例の場合に特に強まる (F(1, 451) = 13.51, p < .001, η2 = .03),という3点が示された。
考察
上記のようなビネットの主効果からは,新型うつに対する会社員のイメージが,病態理解や行動意図といったあらゆる側面においてネガティブなものとなっている現状がうかがえる。また,今後新型うつに対するイメージを改善していくためには,非管理職の間では投薬治療の有効性に関する認識を高める,管理職の間では事例に対する共感を促すなど,役職間での傾向の差異を踏まえた知識啓発が必要となるだろう。

詳細検索