発表

1D-075

マーモセットにおける胎生期バルプロ酸暴露と不公平忌避

[責任発表者] 安江 みゆき:1
[連名発表者] 中神 明子:1,2, [連名発表者] 中垣 慶子#:1, [連名発表者] 一戸 紀孝#:1, [連名発表者] 川合 伸幸:1,2
1:国立精神・神経医療研究センター, 2:名古屋大学

目 的
 ヒトは多くの場面において公平を求め,不公平を忌避することが知られている.ヒト以外の霊長類においてもこのような性質をみることができる.互いに資源(食物など)やサービス(毛繕いなど)のやり取りをする互恵行動もその一つと考えられ,互恵行動の不足は動物にとって不利益につながることもあり,これがヒトの協力行動の起源であると考えられている.筆者らはこれまでの研究において,コモン・マーモセット(Callithrix jacchus:以下マーモセット)が,第三者であるヒト演者のやり取りが互恵的かそうでないかに敏感であり,ヒト演者が食物を公平に交換する場面と,一方の演者が食物を独占する場面を見た後に,二人の演者が同時にマーモセットにエサを提示すると,食物を独占したヒト演者からのエサの受け取りを回避する傾向を示すことによってマーモセットが第三者の互恵性を評価するという高次な社会認知能力をもつことを明らかにした(Kawai, et.al. 2014).
抗てんかん薬として最も一般的な薬剤の一つであるバルプロ酸(VPA)は,胎生期に暴露することによって身体奇形や自閉的行動を示すことがヒトでわかっている(FVS).筆者らはこれまで,胎生期にバルプロ酸(VPA)に暴露したマーモセット(以下VPAマーモセット)が,自閉的傾向(社会的行動の脆弱性や固執性)を示すかどうかを検討してきた.また,第三者互恵評価実験において,VPAマーモセットが互恵条件でも非互恵条件でも,ヒト演者からのエサの受け取りに差を示さないことを明らかにした (Yasue, et. al. 2015) .本研究では,1)VPAマーモセットはヒト演者のやりとりが不公平であることは認知していたが,第三者のやりとりには関心を払わなかったのか,2)あるいは,ヒト演者のやり取りの非互恵性を認知していなかったのか,を明らかにする手がかりとして,フサオマキザルやチンパンジーで行われている不公平忌避タスク(Brosnam et.al. 2009)をVPAマーモセットに与え,自身に与えられる報酬が不公平である場合に,不公平忌避が認められるかどうかを検討した.

方 法
【動物】実験にはNCNPで繁殖飼育された3.7~5.0歳齢(体重330~500g)の8頭の成体マーモセットを用いた.そのうち4頭(雄2頭,雌2頭)は,VPAに胎生期暴露していない個体(UEマーモセット)で,3頭(雄1頭,雌2頭)は,胎生期にVPAに暴露した個体(VPAマーモセット)であった.VPAマーモセットは,母獣の妊娠60日~66日までの計7回,200mg/kgのVPAを投与して作成した.
【装置および手続き】実験はBrosnanらの手続き(Brosnan & de Waal, 2014)を参考にして,以下の条件で構成されていた.1)実験個体もパートナーも同じタスクを行なって,同価値の報酬を得る(Equality test: ETテスト),2)実験個体とパートナーは同じタスクをするが,実験個体は低価値の報酬,パートナーは高価値の報酬を得る(Inequality test:ITテスト).
 動物は,あらかじめスプーンを2秒間保持し,その後にシャーレに乗った報酬とスプーンを交換することができるようトレーニングしておいた.実験には移動に用いる移送箱を装置として用いた(20x25x18.5cm).二つの箱はお互いを見ることができるように100度の角度で配置された.食物選好テストによって,ITテストの高価値の報酬をカステラ片,低価値の報酬としてポン菓子を使用した.ETテストにおいてはどちらの動物もポン菓子を報酬とした.

結 果 と 考 察
 食物選好テストは,2種類の食べ物を同時に提示してどちらの食べ物を選択するかを調べた.UEマーモセットもVPAマーモセットも,ポン菓子とカステラ片の同時提示では90%以上の確立でポン菓子よりもカステラ片を選択した.
UEマーモセットは,ETテストにおいて95%以上のタスク成功率を示したが,ITテストにおいてはタスクの成功率を下げた.VPAマーモセットは,ITテストにおいても,ETテストと同様に95%以上のタスクの成功率を示した.
UEマーモセットは,不公平忌避の傾向があることが示唆された.一方で,VPAマーモセットは食物選好テストによって報酬価値の違いを区別していることが示されたにもかかわらず,自分と他者の報酬価値の違いを区別しなかったことから,本研究では不公平忌避の傾向が示されなかった.

引用文献
Brosnan, S. F. & de Waal, F. B. M.(2003), Monkeys reject unequal pay, Nature
Kawai, N., Yasue, M., Banno, T. & Ichinohe, N. (2014) Marmoset monkeys evaluate third-party reciprocity,Biology Letters
Yasue M., Nakagami A., Banno T., Nakagaki K., Ichinohe N. & Kawai N.(2015), Indifference of marmosets with prenatal valproate exposure to third-party non –reciprocal interactions with otherwise avoided non-reciprocal individuals, Behavioral Brain Res.

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