発表

1D-074

無意識下による単純接触が商品選択に及ぼす影響

[責任発表者] 川越 敏和:1
[連名発表者] 濱村 一彦#:1, [連名発表者] 小野田 慶一:1, [連名発表者] 山口 修平#:1
1:島根大学

目 的
 我々の行動が完全に自由意思に基づくものではないことはこれまでの多くの先行研究から自明であり、意識されない情報処理の結果が意識されないまま行動に影響することがある (Newell & Shanks, 2014)。単純接触効果と呼ばれる、ある対象に反復して接触することでその対象への好意度が高まる現象 (Zajonc, 1968) なども、無意識的な処理の結果である。事実、Kunst-Wilson & Zajonc (1980) は、閾値下の呈示刺激に対してもこの効果が生じることを明らかにしている。
マーケティングにおいては、プロダクトプレイスメントと呼ばれる、テレビなどの劇中に実在する商品を登場人物に使用させたり、配置したりする広告手法がある。これらは閾値下呈示ではないが、その存在に気づかない視聴者にとっては無意識下での呈示となる。本研究では、このような完全に注意の外にある刺激が行動に及ぼす影響に着目し、無意識下での商品への単純接触が、後の商品選択に関与するかを検討した。

方 法
 今回は、実験課題終了後に提供される3種のペットボトル飲料 (緑茶・ウーロン茶・ミネラルウォーター) の選択に対して、実験課題中の視覚的な単純接触が影響を与えるかどうかを検討した。
実験参加者 健常成人男女30名 (平均40.6歳, SD: 9.5; 男女比1:1) であった。被験者間1要因計画とし、年齢と性別をマッチさせた10名ずつの3群に分類した (緑茶群・烏龍茶群・水群)。
性別判断 参加者はまず性別判断課題を行った。これは、人物が1名映された視覚刺激を呈示され、その人物の性別を2択のボタン押しによりできるだけ早く答えるものであった。各群とも飲料が呈示される割合は25%であり、刺激中の人物の男女比は1:1であった。
魅力度判定 性別判断課題に続いて、同一の刺激セットに対して人物の魅力度判定を行った。魅力度についてはあり・なしの2択強制選択を行った。
商品選択と質問紙 上記の課題後、3種のペットボトル飲料を準備し、いずれか1つを提供することを告げて選択してもらった。その後、飲料の呈示に気づいたかどうかについて、その回答に対する自信度とあわせ質問紙により尋ねた。

結 果
 性別判断課題 (F(2,27) = 0.14, p = 0.87)、魅力度判定課題 (F(2,27) = 1.17, p = 0.32) ともに、反応時間に群間差は見られなかった。また、魅力度評価の群間差はなかった (F(2,27) = 1.65, p = 0.21)。性別判断課題の正答率はかなり高く (M = 98%)、群間差も得られなかった (F(2,27) = 1.35, p = 0.28)。
全被験者中、課題中に呈示された飲料を選択したのは7名(約23%) であり、二項検定の結果、有意性は認められなかった (p = 0.17)。この結果は、全体でみると課題中の刺激呈示は選択に影響していないことを示す。また、カイ二乗検定を行ったところ、その選択に関して有意な群間差は見られなかった (χ2 = 1.36, p = 0.51)。
質問紙データについて、課題中の飲料の呈示に気づいた参加者は12名であり、その割合に群間差はなかった (χ2 = 3.33, p = 0.19)。このデータに基づき飲料の選択について再度分析を行った。飲料呈示に気づいた参加者12名中では、約33%の4名が呈示された飲料を選択していたのに対し (p = 0.63)、気づかなかった18名中では、約11%の2名しか選択していなかった (p = 0.03)。この結果は、気づきへの自信度を考慮しても変わらなかった (p = 0.04)。

考 察
単純接触効果は、反復接触という基礎的な情報処理が「好み」に結びつくというシンプルさと汎用性から、今も検討され続けている現象である。Kunst-Wilson & Zajonc (1980) の報告以降行われてきた無意識的処理との関連についての研究では、基本的に閾値下の呈示によって無意識を規定していた。しかし日常場面を想定すると、そのような刺激はほとんど存在しない。一方で、現代人は常に何らかの情報や刺激に曝露され、世の中は意識的には処理されない刺激にあふれている。本研究では、そのような無意識下での処理に着目し、マーケティングの観点から単純接触効果の検討を行った。
興味深いことに、単純接触効果から推測される結果とは逆に、刺激呈示に気づかなかった参加者は、呈示された飲料以外のものを選択した。これはネガティブプライミング (Tipper, 1985) で説明できるかもしれない。今回の課題では初期選択的に人物以外の刺激は抑制されており、その処理が飲料選択に対してプライミング様の影響を与えたと解釈できるのではないだろうか。今後、参加者の本来の好みなどを考慮に入れつつ、サンプルサイズを十分にとったさらなる検討が必要である。

引用文献
Kunst-Wilson, W. R. & Zajonc, R. B. (1980). Affective discrimination of stimuli that cannot be recognized. Science, 207, 557-558.
Newell, B. R. & Shanks, D. R. (2014). Unconscious influences on decision making: A critical review. Behavioral and brain sciences, 37, 1-19.
Tipper, S. P. (1985). The negative priming effect: inhibitory priming by ignored objects. The Quarterly Journal of Experimental Psychology. 1985 Nov;37(4):571-90.
Zajonc, R. B. (1980). Feeling and thinking: Preferences need no inferences. American Psychologist, 35, 151‒175.

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