発表

1D-067

大学生の過去のライフイベントと現在の精神健康との関係— ライフイベントの感情価と覚醒度を考慮した分析 —

[責任発表者] 多田 浩昌:1
[連名発表者] 松本 圭:1, [連名発表者] 伊丸岡 俊秀:1, [連名発表者] 近江 政雄:1, [連名発表者] 石川 健介:1, [連名発表者] 星野 貴俊:1, [連名発表者] 渡邊 伸行:1
1:金沢工業大学

目 的
 過去のネガティブなライフイベントが,その後の精神健康に影響を及ぼすことが明らかとなっている。そこで松本他(2014)は,ポジティブなライフイベントも含めて,経験した出来事が現在の精神健康に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする調査を行った。しかし,そこで取り上げられたライフイベントは10種に限られていた。またライフイベント経験時の感情について,快-不快の程度のみを測定していたため,その感情の強さを十分に測定できていない可能性があった。そこで,本研究では取り上げるライフイベントの数を10種から24種に増やし,感情評定については経験した時の感情価(快-不快の程度)に加えて,覚醒度(興奮-沈静の程度)も測定することとした。さらに精神健康の測定においても,人のポジティブな側面のひとつであるwell-beingの測定に適した尺度としてPERMA-Profiler KIT版を新たに採用し,ネガティブな側面を測定するGHQ30(the General Health Questionnaire 30項目版)と併用した。
方 法
対象者 工科系大学の学生89名(うち男性74名,平均年齢19±0.74歳)を分析の対象とした。
質問紙 改訂版ライフイベント質問票,GHQ30,PERMA Profiler-KIT版を使用した。改訂版ライフイベント質問票は,過去に経験した24種のライフイベント(学業,対人関係におけるポジティブ,ネガティブな経験等)の経験の有無,経験した時期,伴った感情(感情価と覚醒度それぞれ9件法),現在への影響(5件法)を尋ねるものであった。PERMA-Profiler KIT版は人のポジティブな側面を測定する26項目から構成される質問紙であった。
手続き 大学の講義の空き時間を利用し,研究協力に同意が得られた者を対象として実施した。本研究は金沢工業大学において倫理審査を受け,承認を得た上で行われた(承認番号0154)。
結 果
 GHQ30,PERMA-Profiler KIT版の総合得点および各下位尺度を目的変数,ライフイベント経験の有無を説明変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行った。また同様の目的変数にライフイベントに対する感情価,覚醒度,および,感情価と覚醒度を合成した変数をそれぞれ説明変数とした重回帰分析を行った(以下,感情評定がネガティブな経験について,感情価を説明変数として用いた分析では,解釈を容易とするため係数の正負の符号を逆転して表示した)。その結果,用いる説明変数によって結果パターンの相違が見られた。例えば,家族の死は経験の有無と感情価を説明変数とした分析では現在の精神健康への影響はみられなかったが,覚醒度を説明変数とした分析では一般的疾患傾向(β= .22, p <.05),ポジティブ感情(β= .20, p <.05)と,感情価×覚醒度を変数として用いた分析では一般的疾患傾向(β= .20, p <.05),希死念慮とうつ傾向(β= .22, p <.05),達成(β= -.27, p <.01),および,孤独感(β= .26, p <.05)に対して,それぞれ影響がみられた。家族以外の人の死の経験においても,経験の有無を説明変数とした分析では影響がみられなかったが,感情価を説明変数とした分析では,達成(β= -.27, p <.01),KIT(β= -.29, p <.01)と,覚醒度を用いた分析では,社会的活動障害(β= .25, p <.01),ポジティブ感情(β= -.18, p <.05),達成(β= -.29, p <.01)と,さらに感情価×覚醒度を用いた分析では,社会的活動障害(β= .27, p <.05),ポジティブ感情(β= -.25, p <.01),達成(β= -.28, p <.01),Overall(β= -.22, p <.05),KIT(β= -.25, p <.01)と関連が見られた。弟妹が誕生した経験では経験の有無を説明変数とした分析では影響はみられなかったが,感情価を説明変数とした分析では社会的活動障害(β= .21, p <.05),GHQ総合得点(β= .19, p <.05),達成(β= -.20, p <.05)と,覚醒度を説明変数とした分析では,身体的症状(β= .21, p <.05),社会的活動障害(β= .25, p <.01),達成(β= -.17, p <.05)と,さらに感情価×覚醒度を説明変数とした分析では,身体的症状(β= .28, p < .01),社会的活動障害(β= .20, p <.01),GHQ総合得点(β= .24, p <.05),および,人生の意味(β= -.21, p <.05)と関連が見られた。
一方で,いじめの被害経験では経験の有無のみで一般的疾患傾向,身体的症状,社会的活動障害,不安と気分変調,希死念慮とうつ傾向,GHQ総合得点,ポジティブ感情,他者との関係,ネガティブ感情,身体健康,孤独感(それぞれβ= .31, .28, .32, .33, .41, .45, -.28, -.29, .28, -.28,. 31,いずれもp <.01)に対し,いずれも悪影響がみられたが,感情価×覚醒度を説明変数として用いた分析では,影響が見られる尺度が社会的活動障害,不安と気分変調,GHQ総合得点,ポジティブ感情,他者との関係に限られ,それらの係数も小さくなっていた(それぞれβ= .20, .21, .28, -.20, -.22, GHQ総合得点のみp < .01, それ以外はp < .05)。
考 察
 説明変数の情報量が増加する事で結果の説明力が必ずしも増加するとはいえなかった。あるライフイベントを経験したかどうか,またその出来事に対する感情評定(快-不快および興奮-沈静の程度)が,現在の精神健康に及ぼす影響は一律でなく,ライフイベントによって異なることが示された。
引用文献
松本圭・伊丸岡 俊秀・近江 政雄・鶴谷 奈津子・石川 健介・渡邊 伸行(2014). 過去のネガティブ・ポジティブなライフイベントが大学生の現在の精神健康に及ぼす影響 心理学の諸領域, 3, 21-29.

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