発表

1D-062

プレッシャーが言語・視空間性ワーキングメモリ容量に及ぼす影響

[責任発表者] 則武 良英:1
[連名発表者] 武井 祐子:1, [連名発表者] 寺崎 正治:1, [連名発表者] 門田 昌子:2, [連名発表者] 竹内 いつ子#:1
1:川崎医療福祉大学, 2:倉敷市立短期大学

目 的
 課題遂行において,高い成績を望むことで予測されるよりも低い成績となる現象を「プレッシャー状況下での窒息(choking under pressure)」と呼ぶ。DeCaro, Rotar, Kendra, & Beilock (2010) は言語・視空間性の算数課題の成績をWM容量の指標として,プレッシャーの影響を調べた。その結果,プレッシャー教示により不安や心配などネガティブ思考が発生し,言語性の算数課題の成績が低下することを示した。
しかし,不安喚起状況で視空間性WM課題成績が低下することを示した知見もあり (Shackman, Sarinopoulos, Maxwell,
Pizzagalli, Lavric,& Davidson , 2006),一貫した結果は得られていない。そこで本研究では,算数課題よりも正確なWMの指標としてWM課題を使用して,プレッシャー教示が引き起こすネガティブ思考が言語・視空間性WMに及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
方 法
実験参加者:大学生26人 (男性4名,女性22名) を対象とした。課題:言語性WM課題として,画面に表示される文章を音読しながら単語を覚えるReading span (苧坂,2000) を用いた。視空間性WM課題として,様々な向きで画面に表示されるアルファベットが反転しているか判断しながら,方向を覚えるSpatial span (Shah & Miyake, 1999) を用いた。質問紙:主観的なプレッシャーの程度を尋ねるプレッシャー確認質問紙と,課題遂行中の感情や思考を自由に書き出す思考自由記述質問紙 (DeCaro et al, 2010) を使用した。手続き:ベースライン条件の後にプレッシャー条件を実施した。ベースライン条件では,練習試行の後に言語性・視空間性WM課題を実施し,課題終了後に思考自由記述質問紙,プレッシャー確認質問紙を実施した。その後,プレッシャー教示 (DeCaro et al, 2010) を行なった。プレッシャー教示は3種類あり ( (1)自己改善プレシャー:ベースライン条件の課題成績よりも成績が20%向上することによって報酬 (500) が得られる。(2) 社会的プレッシャー:実験はペアが組まれており,自分とペアの2人ともが (1) の条件を達成することで追加報酬 (500) が得られ,相手は既に1つ目の条件を達成している。(3) 評価プレッシャー:遂行の様子をカメラで撮影し,撮影した映像は実験者が分析する),3種類すべてを全被験者に伝えた。プレッシャー教示の後,ベースライン条件と同じ手続きでWM課題と2つの質問紙を実施した。WM課題の実施順序はカウンターバランスをした。
結 果
 2条件 (ベースライン条件・プレッシャー条件) における,プレッシャー確認質問紙得点の差についてt検定を行なった結果, 2条件で有意な差は認められなかった。思考自由記述質問紙で得られた内容はDeCaro et al. (2010) を参考に6つのカテゴリー (1:不安・心配などのネガティブ思考,2:遂行自体に関する思考,3:課題全般の思考,4:一般的な苦痛・緊張,5:課題無関連思考,6:課題への馴れ思考) に分類し,各カテゴリーの計数を求めた。2条件における6つのカテゴリーの思考数の差についてt検定を行なった結果,ベースライン条件よりもプレッシャー条件において,ネガティブ思考数が有意に多かった (t (25)= 2.26, p < .05)。遂行自体に関する思考数はプレッシャー条件の方が有意に少なかった (t (25) = 3.05 p < .05)。課題への馴れ思考数はプレッシャー条件の方が有意に多かった (t (25)= 3.63, p < .01)。2条件における言語及び視空間性WM課題得点の差について,t検定を行なった結果をFig.1に示す。2条件下において,言語性WM課題得点は有意な差は認められなかったが,視空間性WM課題得点はプレッシャー条件の方が有意に低かった (t (91)= 3.64, p < .01)。













考 察
 本研究では,ベースライン条件よりもプレッシャー条件において,参加者はより多くのネガティブ思考を示し,視空間性WM課題得点は低くなっていた。このことから,プレッシャーが引き起こすネガティブ思考が,視空間性WMに影響を及ぼす可能性が示唆された。一方,言語性WM課題におけるプレッシャーの影響は確認されなかった。これは言語性WM課題として使用したReading spanの学習効果の高さに起因すると考えられる。今後は言語性WM課題の改善や,学習効果を統制するための統制群を設けることが必要である。さらに本研究では2条件下において,プレッシャー確認質問紙得点の差は認められなかった。参加者の主観的なプレッシャーの程度を確認する方法についても改善する必要がある。
引用文献
DeCaro, M. S., Rotar, K.S., Kendra, M. S.,& Beilock, S. L. (2010).
Diagnosing and alleviating the impact of performance pressure on mathematical problem solving. The Quarterly journal of experimental psychology, 63, 1619–1630.
Shackman, A. J., Sarinopoulos, I., Maxwell, J. S.,Pizzagalli, D. A.,
Lavric, A., & Davidson, R. J.(2006). Anxiety selectively disrupts visuospatialworking memory. Emotion, 6, 40–61.

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