発表

1D-058

新しく学習した文字に対する共感覚色の安定性

[責任発表者] 浅野 倫子:1
[連名発表者] 津城 拓也#:2, [連名発表者] 横澤 一彦:2
1:立教大学, 2:東京大学

目 的
 色字共感覚とは,文字を見たときに,通常引き起こされる認知処理に加えて,色の感覚も引き起こされる現象である(例:「つ」という文字に薄黄色の印象を覚える)。人口の1~2%の人(色字共感覚者)がこの感覚を持つと推定されている。色(共感覚色)は高い時間的安定性を持ち,基本的に幼少期から変わらないことが知られている(Ward, 2013)。
 色字共感覚者は一般的に,知らない文字には共感覚色を感じないが,一方で,外国語学習などで新しい文字を覚えると,それらに共感覚色を感じるようになることが知られている。このような文字と色が結びつく過程の研究は,色字共感覚のメカニズムを解明する上で示唆に富むものである。Mroczko, Metzinger, Singer, & Nikolić (2009) は,新奇文字を既知の文字に対応づけて共感覚者に示し(例:「この新しい文字は“A”に相当します」),たった10分程度の新奇文字の書き取り学習を課すだけで,対になる既知文字の共感覚色が転移する形で,新奇文字に共感覚色がつくようになることを明らかにした。この実験結果は,共感覚色が文字の知覚的な形状ではなく概念に結びついていることや,色字共感覚が可塑性の高いメカニズムの上に成り立っていることを示唆している。しかしそのような短時間で獲得された新奇文字の共感覚色は定着するのだろうか。この点について検討するため,本研究では色字共感覚者に新奇文字と既知文字のペアを学習させ,既知文字の共感覚色が新奇文字に転移するかと,転移した共感覚色が1週間後も保持されるかどうかを調べた。
方 法
参加者 日本語を母語とする色字共感覚者11名。
刺激 新奇文字刺激として,Mroczkoら (2009) と同様に,古代スラヴ系言語で使われたグラゴール文字12文字(図1)を使用した。参加者は全員,グラゴール文字を事前に見たことはなかった。全12文字の半数を既知文字刺激と結びつけて学習する「実験刺激新奇文字」,もう半数をそのような学習を行わない「対照刺激新奇文字」とした。既知文字刺激として平仮名6文字(その共感覚者にとって共感覚色が安定的にあるものを,共感覚色のバランスを考慮しつつ選出)を用いた。
手続き 実験は「学習前」「学習直後」「学習1週間後」の3回の共感覚色測定と,最初2回の共感覚色測定の間の新奇文字学習課題(約30分)で構成された。各回の共感覚色測定では,既知文字刺激を含む平仮名清音46文字および新奇文字全12文字がそれぞれランダムな順で提示され,参加者(共感覚者)は各文字について感じる色をコンピューター画面上の2563色のパレットから選択して回答した。色を感じない文字については「色なし」を示すボタンを選択した。新奇文字学習課題では,実験刺激新奇文字6文字と既知文字6文字のペアが提示され,共感覚者はまず,新奇文字の書き取りをして字形を覚えた。次にコンピューターを用い,新奇文字に対応する既知文字を2択で選ぶ課題を行って対応関係を学習し(各文字につき最低27試行,10試行連続で正解するまで実施),最後に学習した全6ペアを紙に書いて再生させるテストを行った。それに続けて学習直後の共感覚色測定を行い,さらに学習1週間後にも共感覚色測定を行った。学習直後に新奇文字に共感覚色が生じるようになったかと,その共感覚色が学習1週間後も保持されたかに注目して分析を行った。
結 果
 共感覚色が生じた文字の数 学習前,学習直後,学習1週間後の測定で共感覚色が生じた平均文字数は,実験刺激新奇文字ではそれぞれ2.64(SE = 0.63),5.73(SE = 0.19),5.45(SE = 0.20)文字,対照刺激新奇文字ではそれぞれ2.64(SE = 0.66),3.64(SE = 0.67),3.82(SE = 0.63)文字であった。刺激の種類と測定時期の2要因分散分析の結果,交互作用が有意であり [F(2, 20) = 6.99, p < .01], 単純主効果検定の結果,実験刺激新奇文字の場合は,学習前よりも学習直後と1週間後のほうが共感覚色が生じた文字数が有意に多いことが示された。さらなる分析により,学習直後の実験刺激新奇文字の色は,対になる既知文字の色に近かった(転移した)ことも示された。
 文字色の安定性 学習直後と1週間後で共感覚色が安定していたかを調べるため,これらの測定時点間での,回答色のCIE L*a*b*色空間上での距離を算出した(距離が短いほど色の変化が少なく,安定性高)。平均距離は既知文字で14.0(SE = 1.3),実験刺激新奇文字で40.0(SE = 4.8),対照刺激新奇文字で37.5(SE = 6.9)となり,欠損値のない共感覚者6名のデータを対象とした1要因分散分析と下位検定の結果,新奇文字(実験刺激,対照刺激両方)は既知文字よりも距離が長い(安定性が低い)ことが示された [F(2, 10) = 6.21, p < .05]。
考 察
Mroczkoら (2009) と同様に,短時間の学習により,新奇文字にも共感覚色が生じるようになることが示された。しかし新奇文字の共感覚色は,学習の1週間後でも消失はしなかったものの,平仮名のように幼少期に獲得された文字の共感覚色に比べると不安定であることも明らかになった。これらの結果より,文字の共感覚色は文字についての情報を短時間学習しただけで生じるようにはなるが,色が安定するためには,文字の繰り返しの使用など,さらなる過程が必要である可能性が示唆される。
引用文献
Mroczko, A., Metzinger, T., Singer, W., & Nikolić, D. (2009). Immediate transfer of synesthesia to a novel inducer. J. Vision, 9(12):25, 1-8.
Ward, J. (2013). Synesthesia. Annu. Rev. Psychol., 64, 49-75.

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