発表

1D-054

閾下呈示された手がかりによる探索の促進

[責任発表者] 伊丸岡 俊秀:1
[連名発表者] 清水 朋#:1
1:金沢工業大学

空間的注意はさまざまな要因により制御され、意図的な制御だけでなく自動的な
制御に関する報告も多い。さらに、自動的なだけでなく、意識にのぼらない情報
による制御を示す研究もあり、例えば逆向抑制によって手がかりを知覚させなく
ても周辺手がかりに対して注意が向けられ、プローブ刺激の検出が早められる
(McCormick, 1997)。

このような意識にのぼらない手がかり刺激はどのような神経基盤によって処理を
受けていて、後続の刺激処理にどのように影響を与えているのだろうか。本研究
では閾下呈示された手がかりの処理過程を明らかにするために、手がかり呈示と
それに続く刺激呈示時の事象関連電位を測定する。McCormick(1997)が用いたよ
うな空間手がかり課題の場合、ERP計測のために手がかり刺激とプローブ刺激間
のSOAを変動させることは、手がかりの効果をも変動させてしまうことが考えら
れる。そのため、本研究では視覚探索課題を用いることとし、事前呈示する探索
手がかりを連続フラッシュ抑制手続きによって抑制することとした。

方法

実験参加者 実験目的を知らない10名が参加した.視力に著しい左右差が
ある者はいなかった。10名のうち1名のみがERP測定実験にも参加した。

装置 刺激の呈示にはPCに接続したヘッドマウントディスプレイ(HMZ-T2,
SONY)を用いた。ヘッドマウントディスプレイの画面表示を3D表示の左右分割モー
ドにすることで、PC画面の左半分を左眼に、右半分を右眼に提示できるように設
定した。ERP測定では脳波計(Neurofax EEG-1000, 日本光電)を使用した。

刺激 視覚探索課題の手がかり刺激画面、探索画面、および連続フラッシュ
抑制用のために用いるモンドリアン図形から構成された。探索画面は画面を96に
分割した仮想格子から無作為に選択した16箇所に呈示された文字刺激からなり、
そのうち1箇所では90°か270°に傾いたTであり、残りの15箇所では0, 90, 180,
270°に傾いたLであった。手がかり刺激画面は探索画面でLが呈示される位置に
灰色の、Tが呈示される位置に赤色の四角形が呈示されていた。モンドリアン図
形は視角の2°から6°の範囲でランダムに大きさが決められる、ランダムな色の
四角形1000個をランダムな位置に配置したものだった。モンドリアン画像は各試
行の開始前に20パタンを生成し、それを10Hzで繰り返し呈示した。

手続き ヘッドマウントディスプレイのレンズ調整後、連続フラッシュに
よる抑制が可能な程度に手がかり刺激画面のコントラストを調整した。その後、
手がかり刺激と探索画面の関係についての教示を行い、練習試行の後に実験を行っ
た。実験は1秒間の固視点、10秒間の手がかり画面、5秒間のモンドリアン画像、
その後の探索画面という流れで行われ、探索画面は参加者の反応まで呈示され続
けた。手がかり画面で呈示される刺激は実験条件によって異なり、手がかりが知
覚可能な閾上条件では両眼に手がかり刺激を、手がかりが意識にのぼらない閾下
条件では利き目にモンドリアン画像、非利き目に手がかり刺激を、手がかり刺激
を与えない非呈示条件では両眼にモンドリアン画像を呈示した。

ERP測定でも同様の実験が行われたが、手がかり画面と探索課題に対するERPの分
離を可能にするために、固視点の呈示時間を1-3秒の間でランダムに、手がかり
刺激の呈示時間を5-10秒でランダムにするという変更を行った。脳波はF3, Fz,
F4, C3, Cz, C4, P3, Pz, P4の9箇所で測定した。

結果と考察

各条件における探索平均反応時間をFigure 1に示す。図内の横線は手がかりを知
覚可能だった閾上条件の平均であり、それに比べて手がかりが知覚できない閾下
条件と非呈示条件では明らかに探索反応時間が大きいことが分かる。さらに手が
かり刺激を知覚できていないはずの2つの条件間でも反応時間に差が見られ、閾
下条件では非呈示条件よりも探索が促進されていたことが示された
(t(9)=5.77, p<.05)。この結果は本実験で閾下呈示した探索手がかりが何ら
かの処理を受け、探索に影響を与えていたという可能性を示す。

手がかり呈示と参加者の反応の前後のERP波形を条件間で比較したところ、手が
かり刺激後の波形は非呈示条件と閾下条件がよく似ており、閾上条件のみが異な
る波形を示していた。一方、参加者の反応前後では閾上呈示条件と閾下呈示条件
の波形が似ており、非呈示条件の波形が異なっていた。少なくともこの参加者の
データでは手がかり刺激自体の処理に関わる神経基盤に繋がる証拠を得ることは
できなかった。

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