発表

1D-052

表の読解における抑制的制御の関与

[責任発表者] 杉尾 武志:1
1:同志社大学

目 的
複雑な情報を分かりやすく示すために,表やグラフといった図的表現は日常生活における様々な場面で用いられている。こうした図的表現を用いて判断や意思決定を行うためには,課題に関連した情報に対して注意を効率的に向けることができなければならない。一般的に,図的表現を構成する要素間のどのような大域的な関係に注意を向けるかによって,導出される意味が異なる。こうした大域的読解は,特定の種類の図的表現においてどのように情報が構造化されているかについての抽象的な知識に依存している。
本研究は,高速教示課題学習パラダイム[1]を用いて表型刺激に対して毎試行異なる教示に基づいた反応を行う際の脳活動を測定した。特定の課題間の差異としてではなく,複数の教示に共通した課題特性間の違いとして大域的読解を行際の脳内メカニズムを明らかにすることを目的とした。
方 法
参加者 大学生および大学院生19名(全員右利き,内女性10名,平均年齢23.6歳)。参加者に対して口頭で実験の説明を行い,書面にてインフォームドコンセントを得た。
刺激と装置 PsychoPy[2]を用いて刺激画像の提示および反応の取得を行った。表刺激は5×5のマス目から構成されている仮想のシフト表となっており,行がバイト,列が曜日を表していた。交差するマス目に○が入っている場合は,そのバイトがその曜日にシフトに入っており,空欄の場合は入っていないことを示していた。教示が大域的読解を求める場合は,行と列いずれかのラベルが2か所赤で提示された。それに対して局所的読解の場合は,表内の○の内2か所が赤で提示された。参加者は170cm離れた位置のディスプレイ(
70×40cm)に映し出された刺激を,鏡を通して観察した。
読解課題 各試行において,まず教示が2秒間提示された。教示は,表刺激を読む範囲(大域的・局所的),読む方向(日・人),判断の種類(同じ・異なる),当てはまる際にいずれの指で反応を行うか(人差し指・中指)の組み合わせとして提示された(全16通り)。注視点(平均1秒)を挟んで,ターゲットとなる表刺激が2秒間提示されている間に教示で教示にしたがって課題を行うように求めた(図1)。
手続き 実験は6セッションに分けて実施された(1セッション48試行)。セッション中,参加者はできるだけ目を画面中央に注視した状態で課題の遂行が求められた。1セッションにおいて16種類の教示が3回ずつランダムな順序で繰り返された。参加者は右手に反応ボックスを持った状態で装置内に横たわっており,人差し指または中指がおかれたボタンを押すことで反応を行った(教示に当てはまる場合は指定された指を用いて反応し,当てはまらない場合は指定された指以外を用いて反応した)。参加者はできるだけ速くかつ正確に反応を行うことが求められた(反応の有無に関わらず刺激は2秒間提示され,その間に反応がない場合は誤反応とよされた)。試行間間隔は平均2秒に設定された。
撮像 北海道大学医歯学総合研究棟中央研究部門の3.0T MRI装置(Siemens MAGNETOM Prisma)を用いた(TR2秒,4.37mm間隔3.5mm厚32スライス,解像度2.0×2.0mm)。
結 果
 反応データが取得できなかった3名および全体の遂行成績が60%を下回った3名を除いた13名について,正反応の試行のみのデータを用いてSPM12(Wellcome Department of Cognitive Neurology)を用いた分析を行った(平均正反応率は78.9%)。集団解析の結果,大域的読解と局所的読解の事象間で右下前頭回弁蓋部および大脳基底核の視床下核において有意な活動がみられた(p < .05,クラスターレベル補正)。これらの領域は反応抑制経路を形成していると考えられている[3,4]。さらに,全事象間でconjunction分析を行った結果,V4を含んだ視覚関連領野に有意な活動がみられた。大域的読解を行った条件では,右の上側頭回,前補足運動野および運動前野腹側部の活動が見られたのに対して,局所的読解の条件では,吻側前帯状皮質の活動が有意であった。
考 察
反応抑制経路の活動が,大域的読解時に局所的読解時よりも有意に高くなった結果は、大域的読解時に課題セットを設定する過程において抑制的処理が働いていることを示唆している。こうした抑制的処理は、課題目的に対して適切な関係を読み取るために、それ以外の優勢なグルーピングや局所的要素に対する反応を抑制する形で働いていると考えられる。
引用文献
[1] Cole, M. W., Laurent, P., & Stocco, A. (2013). Cogn Affect Behav Neurosci, 13, 1-22. [2] Peirce, J. W. (2009). Front Neuroinform, 2, 1-8. [3] Aron, A. R., & Poldrack, R. A. (2006). J Neurosci, 26, 2424-33. [4] Levy, B. J., & Wagner, A. D. (2011). Ann N Y Acad Sci, 1224, 40-62.
謝辞 本研究はJSPS科研費 15K00215および15H02716の助成を受けて行われた。

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